視聴率と信念のあいだで
「急激に方向転換をしたら反発が起きる。私自身が徐々に目覚めていったように、番組も少しずつやり方を変えていきました」
生理、ルッキズム、卵子凍結、育児警察にマミーギルト(母親が感じる罪悪感)……。テレビではあまり語られてこなかったテーマに挑み続け、気づけば番組は「気楽に見られるフェミニズム・トークバラエティ」という唯一無二の存在に。3月発表の「TVerアワード」ではバラエティ優秀賞を受賞した。
支持を集める半面、SNS上にはアンチフェミニストからの批判も飛び交う。前川はそれにも目を通す。コメントの裏に見える女性に対する嫌悪感や劣等感は、かつて自分が抱えていたものでもあるからだ。この対立に向き合おうと、番組では「男性の生きづらさ」を取り上げたこともある。
「今の日本社会において女性差別の解消が喫緊の課題であるという前提は譲れないけれど、男女それぞれに生きづらさがあることも事実。女性が男性の生きづらさに目を向けることで、男性にも女性の生きづらさを考えてもらうきっかけになるかもしれない。両者の歩み寄りこそが、ジェンダー平等の実現につながるはずです」
理想の社会を追求しながらも、最大の責務は「数字」と表情を引き締める。視聴率低迷で番組が打ち切りになれば、発信する場もなくなる。多くの人に楽しんでもらうことを最優先に考えつつ、制作者として伝えたいことをいかに実現するか──論語と算盤の両立は、常に課題だ。
わかりやすさが求められるテレビの世界で、あえて正解のないテーマに挑む。そんな自分は「面倒くさい人間」なのだ、と前川は言う。
「でも、こんな面倒くさい人でもテレビ業界でやっていける。そう感じてもらえれば、次の世代がもっと生きやすくなると思うんですよ」
昨年、前川は女性として初めて「24時間テレビ」の総合演出に抜てきされ、数百人規模のチームを率いる大役を務め上げた。制作にあたり前川が最も重視したのは「当事者の声を聞くこと」だったという。制作側の思い込みや想像で番組をつくるのではなく、まずは「自分の無知」を認識し、真摯に当事者の声に耳を傾ける。
経験に甘んじることなく、新しい視点を受け入れようとする姿勢に、多様性時代のリーダー像を見た。
WOMENS AWARD 2025|インクルージョン賞
組織や社会全体のしあわせと成長の実現に貢献した人物に贈られる賞
まえかわ・ひとみ◎1988年、兵庫県生まれ。多摩美術大学卒業後、日本テレビ入社。コンテンツ制作局でバラエティ番組「上田と女が吠える夜」の企画・演出、「世界の果てまでイッテQ!」ディレクターなどを担当。2025年「24時間テレビ48」総合演出。


