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2026.05.29 16:00

日本企業はコミュニケーションでなぜ負ける? マンジョット・ベディが明かす「伝える極意」

トヨタ・レクサスや伊勢神宮、日本政府観光局をはじめ、名だたる企業や団体のクリエイティブコミュニケーションを手がけてきたクリエイティブ・ディレクターで、just on time代表取締役社長を務めるマンジョット・ベディ。

インドに生まれ、約15カ国での生活経験と、38年間の日本暮らしで得た知見を併せ持つマンジョットが説く、世界で勝つために必要なグローバルコミュニケーションの極意とは?


「日本の企業は、コミュニケーションで負けてしまっています。伝えるべきことを伝えきれていません」

まったく澱みのない日本語でそう語るマンジョットは、海外で戦う日本企業のために、写真や映像など多彩な広告表現=クリエイティブを提供してきた。

マンジョットが率いるクリエイティブ企業just on timeは、大手自動車メーカーや官公庁などの海外発信におけるビジュアルやコミュニケーションのディレクション・制作を手がけている。さまざまな日本企業と接する中で、世界でもトップクラスの製品やサービスを生み出しているのに、その「良さ」を伝えきれていない日本企業が多いと感じたという。

「私は、日本が過小評価されていると思っています。世界からではありません。日本人自身からです。そのため、自分たちの製品の『一番の価値』をズバリと表現できていないのです。振り切れていなくて、メリハリがない」

グローバルビジネスの現場では、伝える「中身」の他に、伝える「人」の不足もまた、深刻な課題となっている。

ジェトロ(日本貿易振興機構)による最新の「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」では、海外ビジネスを手がける企業の実に約9割が「海外展開を担う人材が不足している」と回答*。なかでも「海外営業・マーケティング」分野の人材不足を挙げる声が多かった。

つまり、海外展開への意欲はあっても、現地の文化を理解し、多言語でマーケティングを行える人材の確保が難しい。それが、世界で戦う日本企業の共通した悩みであり、日本製品の良さが世界にうまく届かない要因なのだ。

英語、日本語、ヒンディー語など複数の言語を操り、欧米・中東・アジアの文化に精通するマンジョットは、各国の文化に根ざしたクリエイティブを提供することで、そうした悩みに苦しむ日本企業の課題解決に貢献してきたという。

では、文化の垣根を越えて製品やサービスの「核」を伝えるために、最も重要なことは何か?

「それはまず、相手をよく知ることです」とマンジョットは語る。

「たとえば、同じ車種でも、中近東では高級車、タイでは実用車として売られているのに、同じコマーシャル映像を流してしまう。それでは、国によっては全く心に響きません。各々の国には各々の刺さる表現があり、異なるタブーが存在します。何をどう伝えれば、人々の心を動かすことができるのか。それを見抜くためには、まず、その国の人々が本当に大切にしているものを理解しなければならないのです。私の仕事で言えば、どこの誰に届けるかというターゲットに合わせて、言葉も音楽も撮り方もすべて、それぞれの文化を踏まえたものに最適化しています」

*第24回 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2026年3月、日本貿易振興機構(ジェトロ)調査部)を参照

15カ国での暮らしで鍛えた「伝える力」

他国の文化を深く理解したうえで、それを「伝わるコミュニケーション」や「刺さるクリエイティブ」としてしっかり反映させる。この難易度の高い仕事を実践するために必要な多国籍感覚を養ったのは、幼少時から青年時代までの体験だった。

父が外交官という家庭に生まれたマンジョットは、父の転勤によって、2歳の時から、欧米、中東、アジア──およそ15もの国々を転々とする生活を送った。

「友達はできないし、言葉も通じない。とにかく苦しくて、嫌で嫌でしょうがありませんでした。でも、今から考えると、とてもいい経験をさせてもらいました。イスラムの正月ってこんな感じなんだなとか、ドイツの誕生日会ってこんなふうにやるんだとか、いろんな世界の文化を肌で実感することができました。それらのことは、本を読んだりテレビを見ているだけでは、決してわからないことばかり。今の仕事に大いに活きています」

マンジョットが身につけているのは多国籍感覚だけではない。長い日本生活の中で、日本文化を肌で感じ、理解してきた。この「多国籍感覚」と「日本人感覚」のクロスオーバーこそが、彼の最大の強みとなっている。

マンジョットが日本に残る決断をしたのは、17歳の時だった。

「父に『これからは自分一人でやりたい』と申し出たんです」

ただ、当時の日本は外国人にとって、今よりもずっと厳しい環境だった。

「手を上げてもタクシーが止まってくれなかったり、電車では隣の席に誰も座らないというようなこともありました。信用がないと仕事ももらえませんから、日本社会に溶け込むことに必死でしたし、日本語も一生懸命勉強しました。とにかく日本が大好きで、日本のことをよく知りたいと思って頑張った。今は苦しい、でも、だからこそ、後で花が咲くんじゃないかって」

役者(映画『ゴジラvsビオランテ』にも出演)やキャスティング、通訳など様々な職種を経験する中で、「伝えること」を仕事にしたいと感じ、1997年に大手広告会社TYOに入社。撮影、プランニング、制作、ディレクターと、未知の業務に次々挑み、できることを増やしていった。

伊勢神宮で気づいた「日本の強さ」

人生を一変させる出会いが訪れたのは、2003年のことだった。

「伊勢神宮を初めて訪れて、鳥肌が立つほどの衝撃を受けたんです。朝5時頃、宇治橋を歩いていると、自分の足音が耳に響いた。『ああ、これが俺なんだな』と、初めて自分と向き合うことができたんです。とても不思議な瞬間でした。そこからグーっと伊勢神宮に心が引き寄せられました。そして、私が感じたこの感動を多くの人々に伝えなければと思ったんです」

伊勢神宮へのプレゼンテーションが成功し、20年に一度行われる大祭「式年遷宮」に伴うプロモーションを依頼され、通常は立ち入ることのできないお宮の撮影も行った。

「日本人の心の故郷と言われる伊勢神宮に深く関わったことで、私は日本の良さをより強く実感することができました。日本の魅力は、『見えないところ』にあります。相手のことをきちんと気遣う。おもてなし、遠慮、礼儀──そういった目に見えない『和の心』や『間(ま)』をクリエイティブにどう活かすか。それは私がいつも念頭に置いていることですし、もしかしたら私が外国人だからよく見える部分かもしれません。世界で戦う企業が大事にすべきなのも、こうした『日本らしさ』だと思います」

伊勢神宮式年遷宮広報本部 / 制作:TYO / 撮影:マンジョット・ベディ
伊勢神宮式年遷宮広報本部 / 制作:TYO / 撮影:マンジョット・ベディ

”一気通貫制作”が導き出す、経営者の「答え」

多国籍感覚と日本人感覚を持ち合わせるマンジョットのもう一つの強みは、独自の“一気通貫制作”により、「経営者目線のクリエイティブ」づくりができることだ。

広告や宣伝物などの制作は、通常、分業で行われ、多くの人数がかかわる。だがマンジョットは、撮影、監督、クリエイティブ・ディレクター、すべての作業を自ら手がけている。

つまり、作業のレイヤーを極力少なくすることによって、伝言ゲームや、経営者の意図とのズレを防ぐ。この”一気通貫制作”がもたらすスピード感が、経営課題の解決にもつながっていくのだという。

「私は物事をいつもWHY起点で考えています。つまり、『なぜこの製品でなければいけないのか?』という発想です。私に仕事を依頼する企業にはそのWHYを突き詰めてもらって、それを私がメッセージやクリエイティブに落とし込んでいく。そうすれば多くの人の心に届いて、その企業は利益をあげることができます」

ときにはWHYを言語化するために、クリエイティブをつくらない提案をすることもある。経営コンサルティングの立ち位置でかかわり、ビジュアルではなく、企業のビジョンをつくるサポートをする。

記事の冒頭で触れた、グローバル市場で勝ち抜くために伝えるべき「一番の価値」を経営者とともに鮮明にし、表現として磨いていくということだ。

「経営者は迷っていたり、表現できていないだけで、頭の中に『答え』を持っています。私は仕事の依頼を受けると、念入りに情報を調べ、相手のことを徹底的に知るようにします。その上で経営者と対話を繰り返し、『つまりこういうことですよね』と、その『答え』を打ち合わせの場で即座に具体的なイメージや絵として示すことができる。経営者はスピードをとても大事にしますから、クリエイターと直接やりとりがしたい。だから、このやり方はとても喜ばれます」

日本の課題をクリエイティブで解決する

just on timeと並行して、マンジョットは、日本の介護をクリエイティブの力で拡張・強化する一般社団法人KAiGO PRiDEの代表理事と、地方企業を活性化する企業next is eastの社長も務めている。彼の中では、この3つの事業は一本の線で結ばれている。

「私がやっていることは、すべて『日本の課題をクリエイティブで解決すること』です。just on timeは日本企業が世界で勝つという課題、KAiGO PRiDEは日本の介護という課題、next is eastは地方を元気にするという課題。この3つ事業の本質とマインドとパッションはすべて共通しています」

好きな言葉は「わざわざ」、嫌いな言葉は「無理」。just on time設立以降9年間、手間を惜しまず、数々の壁に怯まず挑戦を繰り返してきたマンジョットは、自社と自身の今後をこう語る。

「海外に出ていく日本企業が、正しいコンテンツ、正しいマーケティング、正しいストラテジーで振り切って、もっと世界で儲けられるようにしていく。あるいは、規模は小さくても変革を志す企業の価値とプレゼンスを最大限に高めていく。そうした仕事に、今後もますます積極的に取り組んでいきたいと思っています」


just on time

https://jots.jp/


マンジョット・ベディ◎1969年、インド生まれ。外交官の父のもと15カ国以上で暮らし、17歳で来日。大手広告会社TYOを経て2017年にjust on timeを設立。これまで伊勢神宮をはじめとする日本の魅力発信を担う一方で、トヨタ自動車/レクサスなど、数多くのアウトバウンド施策に携わる。KAiGO PRiDE代表理事、next is east代表取締役社長も務める。

Promoted by just on time | photographs by Shunichi Oda | text by Yasuyuki Uka