最も示唆的なのは、追いかけられる、あるいは襲われるという枠組みが、世界的に最も多く報告される悪夢の型であることだ。こうした文化横断・人口統計横断の一貫性は、進化的起源の指紋である。ランダムな神経ノイズが、東京とアマゾンで同じ物語を生み出すはずがない。
悪夢の中で実際に起きていること
悪夢はほぼ例外なくレム睡眠中に起きる。レム睡眠は、脳が覚醒時と同程度に電気的に活性化しているという点で逆説的な段階である。そして悪夢を見るときに脳で中心的に働くのが、扁桃体だ。扁桃体は、脳の古い脅威検出・恐怖記憶の中枢である。
レム睡眠中、扁桃体は静まらない。むしろ活性化する。神経画像研究は、レム睡眠中に扁桃体の脳血流とグルコース代謝が測定可能なレベルで上昇することを示している。これが、悪夢の内容が生々しく、否応なく現実のように感じられる理由である。恐怖を符号化するハードウェアがフル稼働しているのだ。
通常の健康な状況では、これは不具合ではなく機能である。なぜなら、レム睡眠は一種の「夜間の感情の再調整」として働くからだ。十分に睡眠をとった後は、睡眠不足の状態に比べて扁桃体の否定的刺激への反応性が大きく低下する。健康な夢見の最中、脳はつらい経験の感情的な興奮(認知的負荷)を和らげ、痛みを弱めた状態でそれらを整理している。
悪夢は、このプロセスが過負荷になったときに起こる。医学雑誌『Sleep Medicine Reviews』に掲載された2007年の研究で提唱された情動ネットワーク機能不全モデルによれば、悪夢は正常な活性化ではなく、脳の「恐怖消去」機能の破綻を表している。通常は扁桃体の出力を抑制する調整役である内側前頭前皮質が制御力を失うと、脅威シミュレーションは収束せず暴走し始めるのだという。
興味深いことに、悪夢が頻繁に起きる人は、覚醒時に前頭前皮質の活動がより高いことが見いだされている。夜に制御できなかった分を、日中に補償しているかのようである。悪夢に悩む人の脳は弱いのではない。ある意味では、より懸命に働いている。
なぜ私たちは悪夢を受け継いだのか
悪夢は状況だけの産物ではない。フィンランドと米国の約2万9000人を対象にしたゲノムワイド関連解析(特定の疾患・体質などに関連する遺伝的な特徴を網羅的に調べるための手法)では、悪夢の頻度は36〜51%が遺伝することが示された。つまり、悪夢への素因の相当部分はストレスやトラウマによって積み上がるだけではなく、DNAに書き込まれている。


