サイエンス

2026.05.29 18:00

なぜ人は「悪夢」を見るのか? 進化生物学が明かす驚愕の生存戦略

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追われている。背後に何かがいる──はっきりとは見えないのに、夢だけが与える独特の確信によって、それが自分に危害を加える意図を持つとわかる。叫ぼうとする。声が出ない。走ろうとする。脚がコンクリートのように重い。そして目が覚める。心臓は激しく脈打ち、汗でシーツは湿り、寝室の闇がゆっくりと、見慣れた安全な空間へと組み直されていく。たったいま悪夢を見たのだ。ほぼすべての人が、同様の経験をしている。

古代メソポタミア人は、粘土板に悪夢について書き残した。アリストテレスは『夢について』でそれに頭を悩ませた。人類史の大半において悪夢は、来訪や前兆、罰、そして眠る胸の上にのしかかる邪悪な霊の仕業として扱われてきた。しかし、これまで私たちが考えもしなかった、ある可能性が存在する。悪夢は故障ではないのかもしれない。おそらく設計どおりに作動しているシステムなのだ。

進化生物学者は、ますますその主張を強めている。神経科学、遺伝学、そして文化をまたぐ心理学から得られた証拠は、簡単には退けられない。

悪夢は脳にとって最古のフライトシミュレーターかもしれない

2000年、神経科学者アンティ・レボンスオは、夢に対する科学者の考え方を組み替える論文を心理学・神経科学・認知科学分野などの学術誌『Behavioral and Brain Sciences』に発表した。彼が「Threat Simulation Theory(脅威シミュレーション理論)」と名づけた主張は驚くほど単純で、「夢を見る生物学的機能は、脅威となる状況をシミュレートし、それを生き延びるための行動をリハーサルすることにある」というものだ。

言い換えれば、夢は、毎晩「オフライン」で、しかも結果の伴わない形で稼働する人間の神経系向けフライトシミュレーターである。現実の危険がもたらす生物学的コストを負うことなく、脳が危険への反応を練習できる。

レボンスオはこの仕組みを、進化の文脈、すなわち更新世という地質時代にきっちりと位置づけた。更新世は、ホモ・サピエンスとその直近の祖先がその歴史の大半を過ごした時代である。

数十万年にわたり、脅威は切迫し、物理的だった。捕食者、敵対集団、飢餓、過酷な気候変動。睡眠中に逃走反応や脅威の認識、生存戦略をリハーサルできる脳は、そうでない脳に対して決定的な優位を持ったはずだ。長い進化の時間のなかで、その優位は積み重なり、巨大な適応度(生存・繁殖における有利さ)の差へと増幅する。

裏づけとなるデータは印象的である。夢の内容を文化横断的に分析すると──孤立した狩猟採集民コミュニティから工業化された西洋社会に至るまで──一貫して同じパターンが見いだされる。夢のなかで最も一般的な社会的相互作用は攻撃であり、夢を見る人は加害者よりも被害者となり、夢の中の敵は野生動物か見知らぬ男性であることが圧倒的に多い。

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