経営戦略は一貫しているが、一方で変わったものもある。田中の経営へのコミットメントだ。
高専在学中に18歳で起業した田中は、根っからのエンジニア気質。上場に向けて管理体制が強化された00年には、「つまらない会社になった」と社長を退任して事業に集中した。会社は05年に上場したが、本業以外のことに手を出したツケが回ってきて2年後に債務超過に。筆頭株主の田中が再登板して最悪の状態を脱したものの、経営は相変わらず面白いものではなかった。
心境に変化が訪れたのは、外に出始めてからだ。起業家プログラムのメンターを務めたり、『「公益」資本主義』を書いた事業家、原丈人と会って刺激を受けるうちに、経営に向かい合おうという気持ちが強くなってきた。
「特に変わったのは人への考え方です。以前は安く雇ってコストを下げることしか考えていませんでしたが、それでは組織が強くならない。14年に人事部長を兼任して、半分近くいた非正規社員の正規化を進めました」
ガバメントクラウド採択に向けて兵たん(人材と体制の整備)を重視したのも、計画に間に合わせる必要があったことだけが理由ではない。社員の生活に責任をもつという経営者としての覚悟のあらわれでもあったのだ。
さて、事業者に採択されたものの、「達成感はない。お疲れさま会もささやか」と振り返るように、ガバメントクラウド参入はこれからが本番である。
「国産クラウドであることは追い風です。ただ、そこを強調して外資系を蹴落とすような訴求をするつもりはありません。ガバメントクラウド市場はAWSが圧倒的ですが、今回採択されたことで私たちの信頼性も増すため、手薄だったエンタープライズ市場にも入っていける。国内のIaaS、PaaS市場全体は2兆円規模。2割取れれば4000億円です。こちらも期待は大きい」
夢は膨らむが、課題もあるという。
「うちは優しい社員が多く、『売り上げ200億円だから』と悪い意味で身の丈に合わせてしまう。インパクトのある採択を取ったのだから、社員には縮こまらずに野心を出してもらいたい。そのためにはマネジメントも大胆になって、『やっちゃっていいんだ』ということをみんなに示すべき。私自身、経営者としてのレベルをさらに限界突破していくつもりです」
たなか・くにひろ◎1978年、大阪府生まれ。舞鶴工業高等専門学校在学中に起業、96年にさくらインターネットを創業。2005年東証マザーズ上場(現在プライム市場へ市場変更)。26年3月日本政府が進める「ガバメントクラウド」の提供事業者に採択。


