富山県に世界的な美食家たちが、わざわざ山奥へ足を運ぶ一軒のオーベルジュ「L’évo(レヴォ)」がある。なぜこの場所は、人を惹きつけ続けるのか。その背景には、料理の枠だけでは捉えきれない、土地との深い関係性がある。
富山県南砺市利賀村。富山市から車でおよそ1時間半、山深く分け入った集落である。冬は数メートルの積雪に閉ざされ、公的な水道すら敷かれていない土地もある。日本の行政地図の上で、ここは紛れもなく「辺境」に区分される。
その辺境に、世界中から美食家と料理人が「巡礼」のように訪れる一軒のオーベルジュがある。
L’évo(レヴォ)。オーナーシェフ、谷口英司氏の料理は、『ゴ・エ・ミヨ』において2017年、2022年の二度にわたって「今年のシェフ賞」を受賞。『ミシュランガイド北陸2021特別版』では二つ星に加え、持続可能な営みに贈られるミシュラングリーンスターも獲得している。これは料理の完成度だけでなく、L’évoが地域や環境との関係性を含めて評価されてきたことを示している。
しかしL’évoの本質は、個別の受賞や星の数では捉えきれない、もっと構造的な達成にある。一軒の突出した店が、いかにして一つの地域を育て、その地域がさらに店を育て返すか——この往還の生態系そのものの姿が、利賀村に結晶している。
作り手同士の感性が呼応する場
少し前、私たちはL’évoの谷口さんと共に、飛騨で「Co-Innovation Dining」をご一緒した。利賀と飛騨は山でつながり、自然のリズムにも深い連続性がある。その場で谷口さんたちは、自分たちの世界を持ち込むのではなく、飛騨の食材と季節と記憶に徹底的に向き合い、その土地の可能性を新しい食体験として立ち上げてくださった。土地への向き合い方が、彼らの仕事の核であることを、あらためて知った夜だった。
L’évoの特異さは、シェフ個人の卓越だけではなく、チームが利賀村に根を下ろし、地域の作り手たちと生態系を織り上げているところにもある。
陶芸家の釋永岳氏をはじめ、ガラス作家、木工作家、金工、和紙の職人、ワイナリー、山羊チーズ農場、シルクの作り手——L’évoの公式サイトには、これらのパートナーが料理に欠かせない存在として並ぶ。メニューを刷る紙、ゲストが指先で触れる布、皿、カトラリー、空間の一隅を整える素材の一つひとつに、富山を中心とする作り手たちの手がある。
こうした選択の積み重ねは、「地産地消」という言葉では説明しきれない。地産地消という語は、資源と消費の直線的な関係を前提にしている。しかしL’évoが実践しているのは、それよりはるかに深い相互性である。



