それは運用面でも利点がある。ロバーツは、エッジコンピューター上で動くAIエージェントがサーキットの端にあるネットワークノードを自律的に診断し、復旧するシナリオを説明した。これにより、チームが走って、あるいは車で現場へ向かって手作業で直す頻度が減るという。
「AIエージェントが自律的に原因を切り分け、なぜ切断されたのかを理解し、いくつかのアクションを実行して自力で再接続できるなら……これは、どんな組織にとってもゲームチェンジャーだ」と彼は語った。
予知保全も「クイックウィン(早期に成果を出せる領域)」の好例だ。F1はAIを用いて、サーキット周辺に配備された100台超のネットワークスイッチの中から故障が近づいている可能性のある個体を特定し、故障が発生する数カ月前にフラグ付けしている。これにより、担当チームは先回りしてスイッチを交換でき、レースウィーク中の接続切断やダウンタイムを減らせる。テレメトリーの統計分析も、放送クルーを助けてくれる。彼らはレノボ製のオンプレミスAIアプライアンス機器──筐体の大きさがアップルの「Mac mini」と同等の超小型エッジデバイス──を使って、オープンソースのLLM(大規模言語モデル)をローカルで動かしている。その中には、顧客の独自データで訓練したカスタムモデルも含まれる。
しかしロバーツもスペランツォも、AIがスポーツの中核にある人間要素、すなわち運転とレースそのものを置き換えるとは見ていない。
「ドライバーは人間だ。すべてがAIに置き換わり、AIが全部をコントロールしたら、少し退屈で、味気なくならないか」とロバーツは言う。「人間の要素こそが、見る人を引きつけるのだ」
次はペタバイトクラスのデータになる?
2026年シーズン、F1は新たなレギュレーションを施行する。カーボンニュートラル燃料を使用する新たなハイブリッドパワーユニットを採用し、アウディF1チームとキャデラックF1チームの2つの新チームが加わり、フォード・モーターがオラクル・レッドブル・レーシングのテクニカルパートナーとして復帰する。
ロバーツによれば、こうした変化や今後のアップデートに伴い、データはさらに増えていくという。
彼は自身の仕事を、F1が「数日で90度方向転換できる」ようにするインフラの構築だと表現した。
1つのレースウィーク当たりのデータ量が500TBから650TBへ増えた過去2年が示すとおり、未来のレースは3日ごとに1PB(ペタバイト)、すなわち1000TBを超えるデータを生み出すようになるかもしれない。


