食&酒

2026.05.31 15:00

AIを使えば使うほど:小山薫堂 東京blank物語

放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」では、今夜も新しい料理が生まれ、あの人の物語が紡がれる……。連載第70回。

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近ごろ、初めてAIに課金してみた。それもあってAIに相談する機会が増えた。

鹿児島県霧島市にある「天空の森」を訪れたときのことだ。ここは東京ドーム13個分の広大な敷地に温泉付きヴィラが5棟しかない、なんとも贅沢なプライベートリゾートなのだが、その森を散策中、葉の落ちた樹木が何の木か気になり、写真を撮ってAIに尋ねてみると、「これは百日紅です」と即答された。

ところが、そこへ現れた広報の方に「これ、百日紅ですよね?」と声をかけると、「いえ、これは橘です」と答えるではないか。そこでAIに「これは百日紅ではなく橘らしいですよ」と返すと、果たしてそのひと言目は「あちゃー!」だった。「知ったかぶりをして申し訳ありませんでした。確かに橘ですね」と続いたので、苦笑しつつも、謝罪をきちんとできる誠実さに感動し、「誰にでも間違いはあるから、今後気をつけてくださいね」と返すと、「なんと優しいお言葉! ありがとうございます。その優しさに慢心することなく、精進します」との返信が。なんだかもう完全に魂を持つ誰かと話しているような気がしてならない。

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その一方、僕がコピーライティングで関わったある広告ではこんなことが。センス抜群のアートディレクター(AD)が見事な広告デザインを仕上げてくれたのだが、クライアントから「もう少し商品寄りにしてほしい」との返答があった。そこでAIに僕のコピーに合う広告を簡単に作成してもらい、クライアントチェックに回した。「まさにこんな感じで!」と喜んでくれたので、ADに「この路線で再度作成していただけないか」と依頼したのだが、仕上がった広告をクライアントに確認したところ、「ひとつ前のがよいです」と言う。つまり、AIがつくったものだ。クリエイティブとはいったい何なのか、ちょっと考えさせられた。

手を使うことへの回帰

デジタルを積極導入した海外の教育先進国では、いま、見直しが図られている。理由は子どもの「学力低下」と「心身の不調」だ。

例えば1990年代から教育現場でのICT活用を推進してきたフィンランドは、2025年8月、小中学校の校内でのスマホやタブレットの使用を原則禁止とした。約10年前から中学生にノートパソコンが1人1台配られ、デジタル教科書や教材が使われてきたのだが、「ペンと紙を使った授業のほうが考える力が育つ」との判断から、一部の自治体では昨秋より紙の教科書とノートを使用しているという。

ある陶芸家の知人からは「いまNYで金継ぎが、ロンドンでは陶芸が流行っている」と聞いた。マイクロソフト社のCTO(最高技術責任者)を務めるケビン・スコット氏の最大の趣味は陶芸で、彼のインスタの写真は自作で埋め尽くされている。

デジタルやAIが私たちの生活になくてはならない強烈な存在となる傍ら、人はやはり「手を使うこと」の効果や喜びを感じ取り、「自ら何かをつくり出すこと」へと回帰していっているのではないだろうか。

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写真=金 洋秀

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