「企業価値担保権は、『担保』であって『担保』じゃない。これは事業者との運命共同体のツールだ」――。こう話すのは、数多くの企業再生案件に携わってきた、りそな銀行審査部グループリーダーの山口繁樹だ。
5月25日にスタートした「企業価値担保権」。銀行現場では、有形資産に乏しいスタートアップ支援への期待が高まるだけでなく、企業再生の領域でも大きな注目が集まっている。
大手行の一角である、りそな銀行は審査部主導のもと、新制度を見据えた実効性のある体制をいち早く整備した。4月には、企業再生や再成長支援の実効性を高めるため「企業戦略支援室」を発足させた。
企業価値担保権は銀行の再生支援をどうアップデートさせるのか。本連載の最終回として、企業再生のスペシャリスト・山口に、新制度の活用方法や、経営者との新たな関係のあり方、営業店と審査部の連携施策、これからの銀行員の使命を聞いた。
リスクを承知で引き受ける、これまでと次元の違う『強い決意』必要
──「企業価値担保権」は、将来のキャッシュフローや無形資産など「事業全体」を担保に取れる制度です。この新たな制度が銀行の企業再生支援に与えるインパクトをどう見ていますか?
山口繁樹(以下、山口):企業再生の文脈で言えば、不動産担保の処分や法的整理(倒産手続き)の判断を迫られるのは、再生のタイムラインにおいて「事業が悪化した手遅れの段階」でした。しかし、企業価値担保権は、取引先が倒産した後に資金を回収するためのものではありません。倒産を未然に防ぐための「信頼関係構築ツール」なのです。
この制度には、「担保権」という名前が付いていますが、不動産担保のように、企業が倒産したからといって売却して即座に融資金を回収できるような保全機能はありません。不動産担保であれば、借り手が倒産しても土地・建物は残るので、それを売却すれば損失が軽減されます。
しかし、企業価値担保権の担保の中身は「事業そのもの」です。仮に事業が潰れてしまえば、担保として取っていたはずの顧客基盤やブランド、ノウハウといった価値も一瞬で消滅してしまいます。
だからこそ、金融機関が借り手の事業をきちんと理解し、決算書には表れない「見えない価値」をどう評価するかが重要になります。銀行側もそのリスクを承知の上で引き受けるわけですから、これまでとは次元の違う「強い決意」が必要です。お客さまとは、お互いが同じ船に乗った運命共同体と言えます。この発想が新制度の根幹にあると認識しています。



