──かつて銀行の営業現場と審査部門は、営業現場が融資を通したい「エンジン」と、審査部がそれを止める「ブレーキ」という“水と油”の関係に例えられました。その距離感はどう変わってきているのでしょうか。
山口:いまは本部もお客さまの財務データだけではなく、事業実態など全てを知らなければならないと考えていますので「営業店とともに考えよう」という流れに変わってきています。もちろん、本当にダメなものは、お客さまの将来のためにも止めなければなりません。ただ、止めることが目的ではなく、「どこを起点にすればお客さまのためになるか」を重視する。その視点において、営業現場と審査部門の間にズレはなくなっています。
この流れを加速させるため、一昨年あたりから本部の審査担当者が営業店現場に出向くようにしました。デジタルの進化によりどこでも働くことできる時代になりましたが、「本部でパソコン画面だけを見て、仕事をするだけではなく、審査担当者が担当している営業店に行って、現場を見る必要がある」と感じています。
顔の見えない相手と電話1本でやり取りをしていると、人間どうしても言葉が強くなったり、現場も本音を言いづらくなったりします。決裁権を持つ本部の人間であっても、現場で顔を合わせて対話を重ねて「顔の見える関係」になれば、お互いの理解は深まります。
一方で、現場に歩み寄るからといって、決して現場の意向どおりに進めるわけではありません。私たちが現場に近い「1.5線」としてお客さまに寄り添いリスクテイクを支える一方で、その後ろでは「2線」と呼ばれるリスク管理部門やCRO(最高リスク責任者)が、決済された中身に歪みがないかをチェックします。
また、4月からは、ソリューションビジネス部の下に「企業戦略支援室」という新組織を立ち上げました。これまでの資金繰り支援から一歩踏み込んで、企業の「再成長」をフロントの最前線でコミットしていくための部署です。この組織を審査部門と限りなく近い距離に配置したことで、現場感覚を理解した上で、迅速にリスクテイクの判断を下せる体制が走り始めています。
「非言語化の世界」を理解し、顧客の挑戦を後押し
──企業価値担保権という新たな「ツール」を携え、これからの銀行員はどのような未来を描き、どこに時間をかけるべきなのでしょうか。
山口:AIによる与信審査の自動化なども進んでいますし、我々も市場分析や資料作成の省力化は徹底的に進めています。
我々が本当に時間をかけるべきなのは、その先にあります。捻出した時間を使って、お客さまへの対応をどれだけ大きくして、お互いの夢をどれだけ大きく語り合えるか。そこに尽きると思います。
そこは、決算書やデータには絶対に表れてこない「非言語化の世界」です。文字にできない経営者の覚悟や、現場の熱量、将来へのビジョン。これらを肌で感じ、理解できて初めて、本当の意味でお客さまの「挑戦を支える」ことができます。
山口繁樹(やまぐち しげき)◎りそな銀行審査部グループリーダー。審査歴12年。私的整理や抜本再生など千件以上数多くの再生案件に関与してきた。企業価値担保権の行内体制整備の議論をリードした。行内で5人しかいない「事業再生プロフェッショナル認定」トップとして大型案件を支える。


