2026年5月、米アマゾン・ドット・コムは自社のロジスティクス(物流)ソリューションをサービスとして販売すると発表した。同社は現在、オンライン・マーケットプレイスの出品者に対して倉庫での保管から貨物輸送、フルフィルメント(ECで発生する一連の業務)、配送の機能を提供している。
新サービス「Supply Chain by Amazon」は、同じ内容を他の企業にも提供するもので、米物流大手のFedExやUPSと正面から競合することになる。Amazonのニュースを受けて、FedExとUPSの株価は一時大幅に下落した。両社にとって、最大級の顧客の1社が自社に対抗する事業を始めるのは決して望ましいことではない。
多くの市場アナリストや専門家は、Amazonの物流分野への進出がAmazon Web Services(AWS)の立ち上げに似ていると指摘した。2000年代初頭、Amazonは自社の小売事業を支えるために大規模なコンピューティング基盤を構築していた。その過程で同社は、そのインフラの多くが小売事業だけに特有のものではないと気づいた。あらゆるデジタル企業は同じ基本部品を必要とする。そこでAmazonは、それらの能力を他社に提供し始めた。最初は小さな形で、その後はより正式にAWSとして提供した。社内の必要から始まったものが製品となり、やがてAmazonで最も収益性の高い事業の1つになった。
こうした動きは、テクノロジー業界以外ではめったに起きない。例えばヘルスケア企業は、次の一手をヘルスケアの中に求める。エンターテインメント企業はエンターテインメントで新しいアイデアを探す。銀行はビジネスの仕組み自体を再構築するよりも、銀行を買収して成長しがちだ。
ところがAmazonやGoogle、Appleのような「ビッグテック」と呼ばれる巨大IT企業は、別の領域で勝負することを恐れていないように見える。これは資金力の大きさも一因になっているが、戦略観の違いによるところも大きい。ビッグテックは、エンド顧客に価値を届けるために必要な他のレイヤーをどう提供するか、常に探っている。つまり、彼らは絶えず「フルスタック」に目を向けている。
フルスタック戦略
「フルスタック」という考え方は、技術者の思考様式に深く根ざしている。初期のコンピューターシステムは、管理が難しい相互依存の部品が絡み合った状態だった。部品にはハードウェアからメモリ、プログラム命令まであらゆるものが含まれていた。1カ所の変更が、システムの他の部分に予測不能な影響をもたらす可能性があった。
この複雑さを理解するために、エンジニアはシステムをレイヤーに分解し始めた。各レイヤーには固有の役割があり、上下のレイヤーに情報を渡す際、相手のレイヤー内部でどう動くかを理解する必要はない。全体のシステムアーキテクチャが同じである限り、個別のレイヤーは入れ替えたり改善したりできた。



