MBA(経営学修士)コースの学生なら、フルスタック思考が旧来型の垂直統合にすぎないのでは、と問うだろう。確かに垂直統合もフルスタック拡張も、企業が自社システムのより多くを所有するところに行き着く。違うのは「その途中で何を構築するか」だ。垂直統合は、外部サプライヤーを内製化してコストを下げ、支配力を高めることに主眼を置く。一方、フルスタック思考もそれを実行するが、同じインフラが他のプレイヤーにも役立つレイヤーを探す点が異なる。Amazonがいま、マーケットプレイスと無関係な企業にまでロジスティクスサービスを提供しているように、自社のために作ったものを他社に売ることもある。さらに進めばAWSと同じく、そのインフラ自体が他社が事業を築くためのプラットフォームになることもある。要するに、新たな顧客から新たな収益を生み出すということだ。
Appleが開発するレイヤーの多くも、スタック上の他のプレイヤーのためのプラットフォームとして機能している。Apple Storeは、Apple以外の製品も厳選して販売している。App Storeにあるアプリの大半は他社が作っている。その結果、人々がiPhoneから得る価値の多くは、ウーバー(Uber)やスポティファイ(Spotify)など、Appleのスタックのアプリケーション層に存在する多くのプレイヤーに由来することになる。これは垂直統合を超えたものだ。戦略を考える際にエンジニアのマインドセットを持ち込むと、こうしたことが起きる。
非テック業界のフルスタック
まれではあるが、この種の戦略アプローチはテック企業の外でも見られる。その例として、インド最大のコングロマリットであるリライアンス・インダストリーズ(Reliance Industries)以上の適例はない。
1950年代後半、リライアンス・インダストリーズ創業者のディルバイ・アンバニ(Dhirubhai Ambani)が中東からインドに戻ったときは、彼は世界最大級のエネルギー企業を築こうとしていたわけではない。彼は商人として、ポリエステル糸を輸入し、成長するインドの繊維産業に販売することから始めた。ほどなくしてアンバニは製造に進出し、自らの繊維事業を立ち上げ、やがて自社の小売店を持つことになる消費者向けブランドへと展開していった。その段階では、リライアンスは完成品領域の品質・流通・ブランドで競争していた。
しかしアンバニは、他者が見落としていたものを見ていた。衣料産業の経済性は、繊維のコストと入手可能性に依存する。合成繊維のコストは、さらに石油化学製品のコストに依存する。技術用語で言えば、これらはスタックのさらに下層にあるレイヤーだった。


