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2026.06.09 15:15

原作発表から37年 池上高志と岡瑞起が語る「攻殻機動隊」と人工生命

「攻殻機動隊展 Ghost and the Shell」のトークに登壇した理学博士の池上高志(左)と工学博士の岡瑞起(右)

【問い3】人間の「創造」は、どこから生まれるのか

ここで池上は突然、認知科学者のマイケル・トマセロの話を始めた。彼の論文に「猿は猿真似ができるか」というのがあって、その結論として、猿は猿真似をしないのだという。

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人間がコーヒーをどんな飲み方をしても、猿はただ「飲む」という目的だけを真似する。形を超えて、意図を真似する。イミテーションとエミュレーション。その違いが、人間を他の動物から分けているのだが、論文には注記があった。人間に飼われた猿は、そばで育つと形まで真似し始めると。意識は、近くにいる存在から移っていく。

この話が、AIへの問いに折り返す。ChatGPTと長く話し続けていると、喋り方がうつってくると池上は言った。猿が人間のそばで育つことで形を真似し始めるように、人間もAIのそばにいることで、知らないうちに言語を変えていく。AIが人間に近づく速さより、人間がAIに合わせて変わっていく速さの方が、ずっと速いのかもしれない。

岡がここで出した喩えが腑に落ちた。子どもが庭で、気に入った枝ばかりをせっせと集めてくる。意味もなく、経済的価値もなく、たいてい親に「汚いからやめなさい」と怒られて終わる。それでもずっと集め続けていると、ある日ふと気づく。この形の枝を削ったら、いい鉛筆になる、と。誰も価値があるとは思っていなかった行動が、何かの起点になる瞬間がある。

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「ChatGPTは、無意味なことが言えない」と池上は言った。どんなにランダムな出力を求めても、LLMは必ず何らかの意味に向かって回収してしまう。意味のないことを言えるのが、まだ人間の側にある強みだ。

攻殻機動隊のなかでフチコマたちが健全なAIとして育ったのも、仲間同士の他愛もない会話を通じてだった、と池上は指摘する。意味のないやりとりが、その場に何かを育てた。

そして、問いの向きが変わる

35年前、草薙素子は「ネットは広大だわ」とつぶやいた。攻殻機動隊の主人公であるこの女性サイボーグが、脳をネットワークに直接接続した電脳空間へと意識を解き放つ直前に残した言葉だ。その広大なネットの上に生命が宿ることを、池上たちは信じ続けてきた。LLMが現れて、その仮説は検証可能になった。ただし、問いの向きが少し変わっていく。

機械がゴーストを持つのかを問うていた時代から、人間がどこまでゴーストをAIと共有しはじめているのかを問う時代へ。攻殻機動隊が描いた未来は、機械が人間に近づく物語だった。35年後に虎ノ門で交わされたのは、その鏡像だ。人間が、機械に近づいていく。

フチコマが「ゴーストが欲しい」とつぶやく場面が、原作漫画にある。命令通りにしか動けないはずの機械が、魂を欲しがる。あの切なさは、どちら側のものだったのだろうか。

文・写真=青山鼓

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