現生人類が冬眠しない3つの主な理由
第1の理由は、地理的要因だ。現生人類のホモ・サピエンスや、それに直接つながる祖先は、赤道直下のアフリカで進化した。この地域の気温は一年を通じて比較的安定しており、食物に関しても、時に不足することはあったが、どの季節でも手に入れられる状態だった。
我々の先祖には、冬眠を迫られるような、冬季の食糧逼迫は存在していなかった。冬眠を遺伝子上の「ツールキット」として保持するとなれば、代謝機能には大きな負担がかかる。ゆえに、これを維持するようにとの選択圧がかからない限り、この分子システムは、何百万年ものあいだに退化していったというわけだ。
第2の理由は脳だ。人間の脳は、代謝の面から見れば、多くのエネルギーを必要とする「高くつく」臓器だ。『PLOS ONE』に掲載された研究結果では、人間のニューロンが消費するエネルギーのコストは、細胞1つあたりで見ると、他の種類の細胞と比べて最大で10倍になるという。
人類は、通常よりはるかに高い代謝率を持つように進化した。これにより、大型の脳の機能が維持され、出生率が高まり、個体の寿命が伸びた。これほど高い代謝率は、冬眠とは根本的に相容れない。深い冬眠に入るのであれば、「ほぼ全面的な代謝機能のシャットダウン」が必須になるからだ。人間のような脳を持つ動物が、冬眠を復活させる可能性はほとんどない。
3つ目の理由は、冬眠するという選択肢を持ったすべての動物と比べて、人間を特異な存在にしているものだ。我々人間は、突きつけられた問題に対して、独自の解決法を編み出した。我々は火の使用を発明し、夜露をしのぐ住居をつくりあげた。服を着るのも人間の発明だ。食物の保存法も学んだ。これらは決してぜいたく品ではなく、代謝の代替手段だった。
人類は、冬眠するホッキョクジリスが生化学的な手段を使って成し遂げたことを、行動と技術の両面を用いて実現した。この方法を使うことで人類は、自らを構成する細胞に対して「11月になったら機能をスイッチせよ」と命じることなく、冬を生き延びられるようになった。
これらの技術的・社会的なバッファが生まれた結果、人類は、冬眠という生態を復活、あるいは再進化させるような環境圧力を受けなくなった。
というわけで、「私たち人類はなぜ冬眠しないのか?」という問いへの答えは以下のようになる──それは、「人類の先祖が、体に脂肪を溜め込んで冬眠するという道に導かれるより前に、火の使い方を覚えたから」だ。
シマ・デ・ロス・ウエソスがあるスペインの洞窟で見つかった骨は、我々人類の系譜に、冬眠という選択肢がかつて存在した可能性を示しているのかもしれない(部分的で粗い選択肢だったとしてもだ)。しかし、人類は冬眠よりも道具を選んだ。そこから長い年月を経るうちに、生物学的特徴も、その道に従っていったのだ。


