スペイン北部にある鍾乳洞の奥深くで、我々人類の祖先に関する定説を覆す骨が発見された。シマ・デ・ロス・ウエソス(Sima de los Huesos、「骨の採掘坑」の意味)と呼ばれる竪穴から引き上げられた骨は43万年前のもので、ホモ・ハイデルベルゲンシス(ネアンデルタール人の直接の祖先)のものと見られるが、骨に特定タイプの損傷が多発しているという特徴があった。それは、骨梁(骨の内部にある、海綿状の部分を支える構造)に穴が多数あいていたことだ。
こうした骨の損傷は、季節によって代謝機能が停止する時があった、と考えるとつじつまが合う。言い換えるなら、この骨の特徴は、冬眠する動物が持つ骨の特徴と、非常に近い見た目をしているということだ。
この発見からもたらされる結論は、それまでの定説にはそぐわないものだった。つまり、我々現生人類の親類にあたる初期のヒト属が、冬になると体を丸め、休眠状態になっていた可能性を示唆しているという点だ。
学術誌『L’Anthropologie』に2020年に掲載された、古人類学者のアントニス・バルチオカス、フアン・ルイス・アルスアガの両氏による論文は、こう主張している。ここで見つかった骨の異常(骨膜下の組織の破壊や、思春期の個体に頻発している「くる病」の症例に似た変形など)は、同じ竪穴で見つかった、冬眠の習性があるホラアナグマの骨に見られる病変と酷似していた。これらは数カ月にわたり、代謝機能をほぼ停止状態にして過ごす生活サイクルを持つ体の生理学的な特徴だった、というのだ。
とはいえ、現生人類は、どれだけ冬の気候が過酷でも活動を停止しないことは、みなさんもご存知の通りだ。ということは、シマ・デ・ロス・ウエソスに人類の祖先が暮らしていた43万年前から今に至る進化のどこかの時点で、冬眠という生態は排除されたことになる。その理由を解き明かすには、まずは冬眠の仕組みを理解する必要がある。
冬眠する動物の体内で起きること
冬眠の科学的メカニズムは、一般的に思われている印象よりもずっと洗練されたものだ。冬眠は、睡眠とは異なる。むしろ、似ても似つかないものと言っていい。
ホッキョクジリスやトビイロホオヒゲコウモリ、ジュウサンセンジリスのような、本格的な冬眠をする動物は、基礎代謝率を、通常の覚醒時のレベルと比べて1%~4%にまで低下させている。
ホッキョクジリス(学名:Urocitellus parryii)の体温は、摂氏マイナス2.9度まで落ち込むことがある。また、1回の冬眠期間(冬眠サイクル)は、3週間以上にわたって続くこともある。これは、生理学上の大半の定義によると、瀕死と言っていい状態だ。
それでも死を免れているのは、並外れて複雑な分子レベルのメカニズムがあるからだ。冬眠状態に入るには、複数の変化が連続的に起きる必要がある。実際に起きる変化は、低温誘導性のRNA結合タンパク質から、1万4000を超える遺伝子の発現に生じる季節性の変化、膜流動性の変更、細胞周期の停止まで、動物の種類によって実にさまざまだ。
トビハツカネズミのトランスクリプトーム(ゲノムから転写されたmRNAの総体)に関する2020年の研究では、冬眠のあいだ、内臓が独自に自らの遺伝子発現プロファイルを変更していることが判明した。具体的には、腎臓はろ過機能を調整し、脳はシナプスの活動を抑制する。これはいわば、巧みに連携された身体活動のシャットダウンだ。現生人類のゲノムには、これを模倣できる能力はまったく備わっていない。



