米国の私立大学は、利益を目的とする営利大学と、利益を関係者に分配せず教育に再投資する非営利大学に分かれる。本稿が扱うのは、後者の非営利大学だ。ハーバードやハワード大学などが該当し、全米に900校以上ある。日本の私立大学(学校法人)も同様の構造で、剰余金を理事や関係者個人に分配できず、教育・研究に充てる。米国の私立非営利大学は、この点で日本の学校法人に近い。
米国の非営利大学は、学生の授業料と、寄付を積み立てた「基金(エンダウメント)」の運用益で経営を支える。基金は元本を守り、取り崩しは年5%以下に抑えるのが原則だ。ところが今、この基金を取り崩さなければ運営できない非営利大学が、数百校に上る。
背景にあるのは、高校卒業者数の急減だ。2008年の景気後退期に出生数が落ち込み、その世代が大学進学年齢を迎えている。高額な学費を避け、安価な公立大学に流れる動きも重なる。
同じ非営利大学でも、明暗ははっきり分かれる。アイビーリーグのような難関校が寄付を集めて潤う一方、知名度の低い中堅以下の大学は基金を食いつぶしながら延命している。
寄付を積み立てた約1590億円の基金を持つタルサ大学、職員43人を削減
2016年9月、タルサ大学の経済学教授マシュー・ヘンドリックスと、同大学の職員約3000人に、大学側から不穏なメールが届いた。その内容は、小規模な私立研究大学である同校が、退職年金制度への拠出を停止し、職員43人を削減するというものだった。教育分野を専門に計量経済学を教えていたヘンドリックスは、潤沢な基金を持つはずの大学が、なぜこれほど大がかりに見える措置に踏み切るのか理解できなかった。
当時のタルサ大学の在学生数は、わずか4500人だった。それにもかかわらず、オクラホマ州にある同大学は10億ドル(約1590億円。1ドル=159円換算)を超える基金を持っていた(その多くは、山師的・投機的な独立系石油業者1人からの寄付だった)。この規模の基金があれば、同校の財務基盤は安定しているはずだった。
そこで、終身在職権を持つヘンドリックスは、同大学がどのようにして2600万ドル(約41億3400万円)の赤字を抱えるに至ったのかを調べることにした。壮大な構想を掲げる多くの小規模大学と同じように、タルサ大学の経営陣は2010年の「Embrace The Future(未来を受け入れる)」計画の下で、大胆な拡張路線に乗り出していた。運動部を大学スポーツの最上位カテゴリーである「D-1」に格上げし、フットボールスタジアムを改修したほか、新しい学生寮や7万平方フィート(約6500平方メートル)の舞台芸術センターも建設した。
「教育とは関係のない部門の職員数が、同規模の大学の2倍ほどに膨らんでいた」とヘンドリックスは語る。「学内には20人規模のマーケティングチームがあった。常勤の警備担当者が30人いて、大規模な施設管理チームもいた。図書館にも非常に多くの職員がいて、おそらく20人ほどだった。フードサービスも学内に抱えていたが、一般的にこれは非常にまずいやり方だ」。
80超の学術プログラム廃止を掲げた再建計画の末に、学長辞任
ヘンドリックスは監査済み財務諸表を詳しく調べ、タルサ大学を同じような規模・性格の大学と比較した。2019年4月、タルサ大学の新学長ジェラード・クランシー博士は「True Commitment(真のコミットメント)」と名付けた再建計画を発表した。この計画は、人文学や芸術分野を中心に80以上の学術プログラムを廃止し、STEM分野・医療・ビジネス・法学といった専門職養成分野に重点を移す内容だった。
「考え得る限り最悪の案だった。そもそもこの計画は、どうやって経費削減につながるのかさえ明確にしていなかった。教員を解雇するといった内容も含まれていなかったからだ」とヘンドリックスは語る。
そこでヘンドリックスは、学内でプレゼンテーションを行い、同じような大学と比べてタルサ大学の財政運営がいかに杜撰だったかを明らかにした。地元ラジオ番組にも出演した。大学の最高財務責任者(CFO)はヘンドリックスの分析に強く反論したが、その後、大学側が雇ったコンサルティング会社はヘンドリックスと同じ結論にたどり着いた。
クランシーが大学改革計画を発表してから1年もたたないうちに、同氏と学務担当副学長は不信任を突きつけられた。数カ月後の2020年1月、クランシーは辞任した。タルサ大学ではその後、別の学長も退任し、同校は最近、弁護士のステイシー・リーズが7月1日付で学長に就任すると発表した。チェロキー族の一員であるリーズは、アリゾナ州立大学ロースクールの元学部長でもある。タルサ大学は学生数の維持に苦戦し、恒常的な営業赤字も抱えているため、リーズは厳しい再建課題に向き合うことになる。



