これが、アンソロピックのNet Dollar Retentionが500%を超える理由だ。言い換えれば、ある顧客が1年目に200万ドルを支払うと、翌年には平均で1000万ドルを支払うことになる。契約条件の見直しではなく、ワークロードの増加が要因だ。年間100万ドル超を支払うエンタープライズ顧客数は、2カ月足らずで500社から1000社超へ倍増した。現在、売上の80%以上がエンタープライズ顧客に由来する。
対象市場はソフトウェアを超える
ここで重要になるのが、対象市場の捉え方だ。AIを世界のソフトウェア市場1兆ドル(約159兆円)と比較して評価するアナリストは、指標を取り違えている。金融機関がM&Aのデューデリジェンスにアンソロピックを使う場合や、病院が保険請求の処理に用いる場合、比較対象はソフトウェアのライセンス費用ではない。主として、その業務を人間の専門職が遂行する際に発生するコストと比べられる。
マッキンゼーは以前、生成AIがソフトウェアエンジニアリング、財務分析、法務、臨床オペレーションなど知識集約型セクター全体で、年間2兆6000億〜4兆4000億ドル(約413兆〜699兆円)の生産性価値を上乗せし得ると推計した。アンソロピックが取り込もうとしているのは、IT予算ではなく、その労働市場なのだ。
競争とエンタープライズでの優位
アンソロピックにとって最大の競合はOpenAIで、年換算の収益ランレートは現在240億〜250億ドル(約3兆8100億〜3兆9700億円)程度とされ、アンソロピックは後塵を拝している可能性が高い。この差の一部は、エンタープライズ側の選好によって説明できる。
アンソロピックのモデルは、同社がConstitutional AIと呼ぶ考え方を基盤に設計されており、データプライバシーや安全性のプロトコルをモデルの基礎構造に直接組み込んでいる。企業のプロンプトが公開モデルの学習に使われることはない。金融、法務、医療といった規制産業にとって、こうした安全策は大きな競争優位となっている。
ただし、流通(ディストリビューション)は依然として現実的な弱点だ。グーグル(GOOG)とマイクロソフト(MSFT)は、多くの企業がすでに利用している生産性ツールの内部に、自然なプレゼンスを持つ。アンソロピックにはこの足場がない。


