──銀行のスタートアップ融資の審査体制については、どんな課題がありますか?
大櫃:金融機関がスタートアップ融資で失敗するパターンは大体3つです。一つは技術やモノを評価しに行くこと。ノーベル賞級の技術が本当に世界一かどうかを銀行員が判断するのは無理です。二つ目は社長に惚れ込んでしまうこと。経営チームを見て貸すのではなく、オーナー個人を見て貸すと危ない。三つ目は地元だけで完結しようとすること。分母が小さいところで探しても、優れたスタートアップは数が限られます。
正しいアプローチは、横串で比較することです。例えば宇宙衛星を作っている会社を全国で比較して、どのチームが一番バランス取れているか、マーケットの見立てが一番しっかりしているかを見る。これは支店単位では難しいので、本部で審査を集約するか、専担部署を設けるかどちらかが必要です。
金融庁の考え方も同じで、体力のある地銀には東京でスタートアップに接して「東京基準」の視点を養い、そのノウハウを地元に持ち帰ってほしいということです。東京で優秀なスタートアップに融資している限り、ロスはほとんど出ない。通常の融資よりむしろ安心なくらいです。
投融資のベストミックスが求められる時代に
──最後に、スタートアップへの投資と融資の関係はどう変わっていくと見ていますか?
大櫃:かつては「スタートアップはリスクが高いからVC、安定企業は銀行融資」という線引きが比較的明確でした。でも今はその境界が融けてきている。銀行がVCの世界に入り、VCがデットファイナンスを模索し、投融資のベストミックスが求められる時代になってきました。
日本が担保依存モデルの限界に気づくまで、ソフトウェア産業の台頭から30年かかりました。その間に海外では時価総額上位企業がほぼIT系に入れ替わりました。企業価値担保権の施行を含めて、ようやく潮目が変わりつつあると感じています。大事なのは、経営チームの評価とマーケットの評価を間違えないことです。この2つを軸にすれば、メガバンクだけでなく地域金融機関でも使える仕組みになっていくはずです。
大櫃直人(おおひつ・なおと)◎ミダスキャピタル専務取締役パートナー。1988年、富士銀行(現・みずほ銀行)入行。複数の営業店勤務を経て、本部にてM&A業務や法人取引獲得を推進。2022年に同行常務執行役員リテール事業法人部門・副部門長に就任。スタートアップ企業の経営者と年間1000社と面談を重ねてきた。24年に銀行員として初めてNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演。25年4月、ミダスキャピタル社外取締役、同年10月から現職。


