キャリア・教育

2026.05.29 13:30

AI時代に生き残る能力はネガティブ・ケイパビリティ。SMBCのAI推進トップと哲学者が語る6つのキーワード

磯和啓雄(写真左)谷川嘉浩(同右)

谷川:その話で思い出したのが、「正直なプラセボ」という実験です。箱に「プラセボ」と書かれた偽薬を「効果はありません」と説明して渡しても、症状がある程度改善するそうです。錠剤の見た目や箱が「薬だ」という認識を呼び起こし、言葉による否定を超えて機能するんです。つまり、人間の意識にもレイヤーがあって非言語の情報にも大きく動かされているんです。対面の魅力はそこを受け取りやすいということだと思います。

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少し話が逸れるのですが、最後のキーワードはやはり「倫理」です。何を大切にしたいか、何をやらないでおきたいかが抜け落ちると虚無ですよね。自分のやっている仕事の意味や価値が自己完結しているというのは、そんなに楽しいことではないと思うんです。

磯和:僕らは26年度から3カ年中期経営計画でも社会的価値の創造を掲げていますが、何をやることが社会的価値につながるのか、まだ模索中です。ただ、追いかけること自体に意味があると感じています。

谷川:その都度悩みながら変わっていくくらいでいいんですよ。倫理は制約ではなく、方向性だと思います。2000年前と今が同じ倫理で成立することはありません。2000年前は奴隷制が普通だったように、具体的な中身は時代とともに変わって然るべきです。でも「何か大事なものに向かっていく」という気高さや理想は手放すべきではないですよね。

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磯和:だんだん宗教に近づいていく気もしますが、宗教と倫理は何が違うんですか。

谷川:私はイエス・キリストやブッダが立ち上げようとしたものは、「倫理」と言っていいと思います。彼らが立派なのは「自分たちに100%の正解は帰属できない、でも大切なものを目指すんだ」という態度で生きていたこと。まさに研究的態度なんです。宗教であってもなくても、「これでないとダメだ、私が正解だ」という教条主義が危ういんだと思います。


磯和啓雄◎三井住友フィナンシャルグループ グループCDIO兼三井住友銀行専務執行役員。1990年に入行後、法人業務・法務・経営企画・人事などに従事した後、リテールマーケティング部・IT戦略室(当時)を部長として立ち上げ。2022年デジタルソリューション本部長、23年より執行役専務 グループCDIO。

谷川嘉浩◎1990年生まれ。哲学者。京都市立芸術大学美術学部デザイン科講師。博士(人間・環境学)。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。著書に『増補改訂版スマホ時代の哲学』『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』『信仰と想像力の哲学』など。

文=倉田憲多 写真=若原瑞昌

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