キャリア・教育

2026.05.29 13:30

AI時代に生き残る能力はネガティブ・ケイパビリティ。SMBCのAI推進トップと哲学者が語る6つのキーワード

磯和啓雄(写真左)谷川嘉浩(同右)

谷川:帆船の本を読んで、優れた組織論だと思った話があります。船員ごとに担当業務があるけど、分業しすぎないらしいんです。誰かが離脱したら船を動かせなくなるから、互いに自分の業務範囲を超えて隣のこともやる。隣の仕事もわかるから、困っていたら気づいて助け合える。専業特化するのではなく、際に立って専門性をにじませることの大切さがわかる話ですよね。必要なことだけを行う組織は、結果として回らなくなるんです。

advertisement

磯和:会社が良いときほど、効率化を優先してこの重なりを減らそうとするものですが注意が必要です。

谷川:AI導入の際にも注意すべきですね。意識的に AIと人間のダブりを設計し、維持することが重要になるかもしれない。

磯和:まさにそのダブりをどう設計するかという問いは、会社という概念そのものを問い直すことにもつながるんですよね。

advertisement

ネガティブ・ケイパビリティの価値を見いだし、それぞれの立場で実践してきたふたりは、AIが浸透した先に起きる「組織と個人の変容」を6つのキーワードで語った。

磯和:AIが組織のなかに深く入り込んでいくと、「会社って何やねん」という、根源的な問いが浮かんできます。そこで今、注目しているのが「ポスト・コーポレートガバナンス」「アイデンティティのレイヤー化」「エモーショナル・レゾナンス(共鳴)」という3つのキーワードです。谷川さんはどうですか?

谷川:面白いです。私は、「拡張された心」「研究」「倫理」というキーワードを考えました。今回ピックアップしたのは、現代の組織では見失われやすいだろう視点です。

AIが溶かす「自他の境界」

磯和:すべて気になりますね。まず僕から先に説明しますと、朝出社してGeminiを立ち上げることから始まります。そこで別の生成AIも活用してパワーポイントを作成しますと、アウトプットの主体は「磯和啓雄」という個体ではなく、複数のAIと私が重なり合った「レイヤー化した人格」とも言えるんですよね。そこで考えたのが「ポスト・コーポレートガバナンス」です。そもそも会社という概念は400年前、東インド会社の誕生で生まれましたが、当時は人間しかいなかったから、バラバラな意思をまとめるため法人格を与えたことから始まりました。でも、「AIに意思があるのか」。なかったとしても、AIエージェントを使って、僕が認識していないところでエージェント同士が仕事を回すようになれば、今の法人の枠組みは揺らぐんだと思います。

実際にステーブルコインのJPYCという会社では全トランザクション数の95%がAIエージェントによる指示だというデータがあります。ひょっとすると将来、金融業界はほとんどがAIエージェントからの指示を受けて僕らが動かす側に回る可能性もありますし、AI同士が仕事を互いに回すようになることも現実味を帯びています。だとすると、今のコーポレートガバナンスってそれでええのかと。自分のアイデンティティや責任の所在を再定義する必要があると思います。そういった背景を踏まえ人間同士の、感情を交えた対話の価値が高まると思って「エモーショナル・レゾナンス」のキーワードを盛り込みました。

KEYWORD 02
ポスト・コーポレートガバナンス|株式会社の誕生から400年。これまで「人間」を単位としてきた企業統治のあり方が、AIの台頭で揺らいでいる。意思決定や実務がAI同士で完結しうる時代に、組織の責任や枠組みをどう再定義すべきかという問い。

アイデンティティのレイヤー化|生成AIとの協業によって生まれるアウトプットは、もはや純粋な「個人の成果」ではない。自分という核に複数のAIの能力が積み重なり、分身や環境と溶け合った「層(レイヤー)状の人格」として活動する新しい自己像。

エモーショナル・レゾナンス(共鳴)|AIによる業務代替が進み、合理性やテキストによる意思疎通が自動化されるからこそ、対面での非言語的な「なんとなく気が合う」といった感覚の価値が高まる。理屈を超えて人間同士が響き合う力。

次ページ > レイヤー化された自己とは?

文=倉田憲多 写真=若原瑞昌

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事