台湾の「シリコン・シールド」
全体の状況を確認しておこう。世界の半導体産業の年間売上高は今年、9750億ドル(約155兆円)に達すると予測されており、来年には1兆ドルを超える見通しとなっている。生成AI用の半導体だけで、今年の売上高は5000億ドル(約80兆円)にのぼると見込まれている。
この巨大でますます重要性が高まる産業のファウンドリー(受託生産)市場で、およそ7割の世界シェアを握るのが台湾積体電路製造(TSMC)だ。好業績を背景にTSMCの時価総額は2兆米ドル(約318兆円)を超えており、世界で6番目に価値の高い企業になっている。
TSMCの売上高の約4割は米アップルと米エヌビディアの2社が占める。マイクロソフト、アマゾン、アルファベット、メタ、オラクルといったほかの米テック大手を含む顧客企業や、より広範な装置サプライチェーン(供給網)を含めると、台湾の半導体製造産業と直接・間接に結びついた市場価値はざっと30兆米ドル(約4800兆円)に達する。TSMCの2026年1〜3月期の純利益は、AIブームに押し上げられて前年同期比58%増という驚異的な伸びを記録している。
台湾経済全体も活況に沸く。2026年1〜3月期の域内総生産(GDP)は前年同期比14%近くも増え、39年ぶりの高い伸びとなった。3月の輸出額は過去最高の802億米ドル(約12兆8000億円)にのぼっている。
台湾によるこうした半導体支配は、「シリコン・シールド(半導体の盾)」と呼ばれる一種の抑止力にもなっている。
中国との戦争のコスト
ゲーム理論では、合理的な主体は行動を起こす前にコストと利益を比較する。では、このシリコン・シールドが機能しなかった場合、コストはどれほどのものになると計算されているのか。
ブルームバーグ通信は最近、全面戦争から和解まで5つのシナリオを分析している。そこで示されている数字は衝撃的だ。最悪のシナリオでは、米中衝突による世界経済の損失は最初の1年だけでおよそ10兆6000億ドル(約1690兆円)に達し、世界全体のGDPの約1割が吹き飛ぶ。これは新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)や2008年の世界金融危機を上回るダメージだ。
こうした数字でさえ過小評価されているかもしれない。パンデミック中の半導体不足を思い出そう。自動車販売店から車が消え、家電は入荷待ちとなり、工場の操業停止も相次いだ。米フーバー研究所のフェローで『Defending Taiwan: A Strategy to Prevent War with China(台湾の防衛──中国との戦争を防ぐための戦略、未邦訳)』という著書を上梓したばかりのアイク・フレイマンは「台湾が深刻な混乱に陥った場合、その経済的ショックは戦後経験したことのない規模になる」と警鐘を鳴らしている。


