筆者は長年、ゲーム理論を学んできた。ゲーム理論とは、合理的な主体が、互いの行動が結果に影響を及ぼし合う状況において、どのように意思決定するかを研究する応用数学の一分野である。市場や地政学を理解するのに役立つ枠組みであり、いまそれを当てはめて考えてみるのに最もふさわしい場所は台湾だ。
米国のドナルド・トランプ大統領が今月、中国の習近平国家主席と北京で会談した際、駆け引きはかつてないほど緊迫した局面を迎えた。報道によれば、習は台湾をめぐり、対応を誤れば両国は「衝突」することになると警告した。
一方で、台湾の立法院(国会)は、米国からの武器購入に充てるため7800億台湾ドル(約3兆9000億円)規模の特別予算案を可決した。トランプ政権は昨年12月、台湾への110億ドル(約1兆7500億円)相当の武器売却を承認しており、さらに140億ドル規模の売却を検討しているとされる。
世界を巻き込むチキンゲーム
ゲーム理論には「チキンゲーム」と呼ばれる有名なシナリオがある。2人の運転手が、それぞれの車を互いに正面から相手側に向かって走らせる。先にハンドルを切ったほうはメンツを失うが、生き残る。どちらも避けなければ、両者とも破滅する。ここでのジレンマは、双方とも相手が先にひるむのを望む一方、判断を誤った際の代償は破滅的なものになることだ。
それがまさに当てはまるのが、台湾海峡を挟んだ問題である。
中国は、台湾統一は不可避だと考えている。習は台湾を「核心的利益の中の核心」と見なしており、中国政府は武力行使の選択肢を一度も排除していない。
一方、米国は75年以上にわたり台湾への軍事的・政治的支援を続けてきた。この関与を放棄すれば、あるアナリストが述べているようにインド太平洋地域の米国の同盟システム全体に「破滅的な連鎖反応」を引き起こす恐れがある。
それはまた、最先端半導体の9割超を生産している地域を手放すことも意味する。
教科書的なチキンゲームでは、衝突のコストは固定されている。双方とも相互破壊がどのようなものになるのかを知っている。だが台湾海峡では、衝突によるコストは急激に増大している。主な原因となっているのはAI(人工知能)だ。



