経済・社会

2026.05.31 14:15

「丹心」は「感動」に通ず 「ミスター百貨店」大西 洋が語る伊勢丹イズム

伊勢丹百貨店創業者である二代小菅丹治の伝記本のデザインを依頼された私は、その人柄を表紙で伝えるべく、創業家の座右の銘である「丹心」という文字にこだわり、門司港の看板職人に依頼した(前回の記事はこちら)。

題字が決まり、デザインの方向性も固まった書籍『丹心』であったが、私はさらに “伊勢丹”の真髄に迫りたいと思っていた。伊勢丹新宿店に漂う独特の空気について、もし関係者に話を聞くことができれば何か分かるかもしれない。そんなことを継続して担当の編集者と話をしていた。

しばらくしてその話が、ご縁がご縁を呼び、奇跡的にかつて社長を務められた大西洋さんへと伝わった。

大西洋氏は伊勢丹出身の生え抜きで、三越伊勢丹ホールディングスで社長(2012〜2017)を務めた人物だ。

私はいささか戸惑っていた。首尾よく今回のご縁を頂いたものの、普段の私は主に本のデザインなどをするデザイナー。経営やビジネスといった分野からは遠いところで生きてきた人間だ。ビジネス書のデザインをすることはあっても、それはあくまで本の話。大西氏と会ったところで、話が噛み合うのだろうか。そんな不安を抱えていた。

お会いする場所は、ロイヤルホストの某店にした。ロイヤルホストは、大西氏が学生時代から足繁く通い、顧客体験の大切さを学んだ「自身のルーツ」でもあったからだ。

指定の時間に合わせて店に出向いたら、大西氏はすでに到着していた。その外見は、かつて「ミスター百貨店」とも呼ばれ、三越伊勢丹ホールディングスを率いた人物にふさわしい品格があった。しかし、外見から来る私のイメージは、次の瞬間打ち砕かれた。

大西氏はこちらが挨拶をする隙もなく、すっと頭を下げた「大西です、今日はよろしくお願いします」。その物腰の柔らかさに面食らった私は、少し遅れてあわてて頭を下げたが、頭に描いていたステレオタイプな世の社長像は早くも崩れ去っていた。

頭を下げつつ私は、さて今日はどうしたものかと内心冷や汗をかくのだった。それと同時に肩の力が抜けたのも事実で、「もしかしたら私でも何か実のある話ができるのではないか」と安堵した。

「私はね、運がよかっただけです。偶然なんです。本当にたまたま社長になっただけなんですよ」と、大西洋社長は柔らかな口調で語り始めた。1955年生まれで現在70歳の大西氏は、三越伊勢丹ホールディングスを退任後、羽田空港の運営やプロデュースを行う羽田未来総合研究所の社長を務めた(2026年3月をもって退任)。

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文・写真=長井究衡 編集協力=久世和彦

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