重要なのは、そうしたニューロンの発火が、脅威を感じさせる他の刺激に対しては起きなかったことだ。例えば、捕食者のにおいがしたり、迫ってくる何かが見えたり、突然音がしたり、軽い不安を誘発する状況が起きたりしても、同じような反応は見られなかった。
この神経回路は、脅威全般ではなく、高所にのみ特化していた。これは、実に驚くべき特異性だ。脳には事実上、高さに関連した危険のためだけの回路があることを意味するからだ。一般的なアラームシステムがたまたま、高さをきっかけに作動するわけではない。
とはいえ、BLAは単独では機能しない。高所への恐怖は、少なくとも二つの知覚の流れが交わる場所から生じていると見られる。
1.視覚:ここには、奥行きを感じ取る知覚が含まれている。要するに、網膜に届く光のパターンをもとにして距離を読み取る能力だ。
2.前庭:内耳にあるシステムで、空間内における体の方向と動きを追跡する働きを持つ。
この二つのシステムは、地上にいる時はたいてい一致している。しかし、高所に移ると分岐し始める。視覚的な基準ポイントが、遠ざかることによって当てにならなくなると、空間を認識する上で有効な情報がほとんど得られなくなる。その一方で前庭システムは、不安定かもしれない場所でバランスを維持しようと必死に働く。
これら二つのシグナルが一致しないことで、研究者の言う、ある種の「知覚過負荷」が起こる。その結果、混乱や不安定さを覚え、あるべきところに地面が存在しないという、少し気分が悪くなるような感覚が生じるわけだ。
高所に対して極端な恐怖を感じる状態を、医学的には高所恐怖症と呼ぶ。研究によると、高所恐怖症の人が高さに恐怖を感じる時は、バランスを維持しようとして、視覚シグナルに過度に頼る傾向がある。それは、前庭システムの機能不全や、視覚システムとの不一致を穴埋めしようとするからだ。
高所にいることで視覚的な手がかりが得られなくなると、バランスを維持するシステムは、頼れる情報を失う。その結果、不快感のみならず、自分をコントロールできなくなるのではないか、という差し迫った不安に襲われることがある。こうした「視覚と前庭のミスマッチ」が、理性では安全だとわかっていても、高いところは危険だ、と感じる理由の核心にあるようだ。


