サイエンス

2026.06.02 17:00

高所恐怖症の正体は「生存本能」、落ちた経験がなくても怖く感じる科学的理由

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この結果は、現在の研究者たちが呼ぶ「恐怖獲得の非連合モデル(non-associative model of fear acquisition)」と一致する。

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古典的な「条件付け(conditioning)」理論に基づく従来の説では、恐怖症や強い恐怖心は、トラウマ的な経験から生じるとされてきた。つまり、高いところから落ちる経験をすると、高所と痛みが結びつき、高所に対して恐怖心を覚えるようになるという意味だ。しかし、R.G.メンジーズとJ.クリストファー・クラークは1990年代、高所恐怖症を含む恐怖症の一部について、そうした従来の見方に疑問を呈するという、画期的な研究を発表した。

この研究では、高所に対して恐怖心を覚える場合でも、そのきっかけとなった出来事を思い出せない人がかなり存在したことが明らかになった。転落したことも、転落しそうになったことも、転落した人を目撃してショックを受けたこともなく、恐怖は、時にはかなり幼いころから、ただ単に存在していたのだ。

その後に行われた研究では、高所恐怖症の人よりも、高所恐怖症ではない人の方が、幼いころに転落した経験をより多くしていたことがわかった。「経験によって恐怖心が生まれる」という条件付けモデルとは、まさに正反対の結果だ。

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この結果を説明する、より大きな理論的枠組みを築いたのは、心理学者のマーティン・セリグマンだ。同氏は「準備性(preparedness)」という概念を提唱し、生物は、あらゆる物事に対して等しく恐怖心を抱くわけではないと説いた。

セリグマンの主張によると、自然選択は、進化の歴史を通じて繰り返し致命的な脅威をもたらしてきた刺激に対して学習システムが働くよう、仕向けてきたという。高所という脅威は、まさにそれに当てはまる。断崖絶壁の縁で躊躇して立ち止まった霊長類は生き延び、立ち止まらなかった霊長類は、得てして子孫を残せなかった。そうして何百万という世代を経るうちに、躊躇することは、学習で身に着けるというより、最初から組み込まれた生来の反応になっていった。

高所への恐怖心は、脳と体にどう刻み込まれたのか

高所への恐怖心が進化の過程で組み込まれたものだとすると、「その恐怖は、具体的にはどこに組み込まれているのか」という疑問がおのずと浮かんでくる。そして神経科学は、この疑問に対して相応に正確な答えを出しつつある。

鍵を握るのは、扁桃体基底外側核(basolateral amygdala:BLA)という組織だ。脳の側頭葉の内側にある、小さなアーモンドの形をした神経細胞の集まりで、古くから恐怖の処理と関連付けられてきた。

2021年に『Journal of Neuroscience』で発表された研究では、「高さ」にのみ選択的に反応するBLAの細胞組織集団が独立して存在することが確認された。マウスを高い場所に置くと、「高所恐怖ニューロン」が盛んに発火する。それに伴って心拍数が上昇し、体が凍りつく、という特有の凍結反応が見られたのだ。

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翻訳=ガリレオ

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