経営・戦略

2026.05.25 13:15

資産の定義変える「企業価値担保権」の行方 第一回:正林弁理士「知的財産の評価がカギ」

5月25日に企業価値担保権が施行された

5月25日に企業価値担保権が施行された

日本の融資実務にとって一つの転換点となる「企業価値担保権」が5月25日に始まった。不動産担保や経営者保証に頼りにくいスタートアップや中堅・中小企業の資金調達に、新たな選択肢をもたらす可能性を秘める新制度だ。

これまでも特許などの知的財産に着目した「知財金融」の取り組みは推進されてきたものの、実態として現場への定着や普及には至っていなかった。それだけに、従来の融資慣行を変える新制度への期待は大きい。

この制度で重要になってくるのは、企業の中にある見えにくい価値をどう捉えるかだ。技術、ノウハウなどの非財務情報である無形資産は、企業の成長力や競争力を支える重要な要素だが、外部から評価することは容易でない。企業価値担保権の活用が広がるかどうかは、こうした見えにくい価値をどこまで事業価値として読み解けるかにもかかっている。なかでも知的財産は、企業の将来性を見極める重要な手がかりとなる。

企業価値担保権をテーマとした本連載では全3回にわたり、制度に関わる専門家や銀行関係者に展望と課題を聞く。第1回は、融資や投資判断に資する知財実務に長く取り組んできた正林国際特許商標事務所の代表社員・正林和子弁理士。知財評価と動産評価との接続に取り組み、金融庁関係者も登壇した日本動産鑑定主催のシンポジウムで講演を行った正林が、実務知財を切り口として、知財金融と異なる企業価値担保権の意義や、AI時代の知財評価を語った。


日本の融資実務に大きな変化を促す制度

──企業価値担保権の制度が始まります。知財金融に長らく取り組んできた弁理士の立場から、まず何が変わったと見ていますか?

正林和子(以下、正林): 一番大きく変わるのは、不動産担保や経営者保証に過度に依存せず、企業が将来にわたって価値を生み出す力を融資判断に組み込みやすくなる点です。単なる担保制度の変更ではなく、日本の融資実務に大きな変化を促し得る制度だと見ています。

従来の融資実務では、有形資産や過去の財務実績が大きな判断材料になってきました。企業価値担保権では、そこに、将来の収益力や事業継続性を評価する視点が加わります。このため、企業の将来性を読み解く目利き力が、これまで以上に問われることになります。事業の中には有形資産だけでなく無形資産が含まれ、その代表格が知的財産です。単なる知財権の有無などではなく、その知財が事業継続性にどう結び付いているかを読み解くことが求められるため、知財評価の知見を有する弁理士が関与する意義があります。

これまでも特許権や商標権などの知財に着目しその価値を活用しようとする「知財金融」への取り組みはありましたが、実態としては現場で広く活用されていたとは言いにくい状況でした。

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