──昨今、AIによる特許出願や資料作成の効率化も進んでいます。この動向は企業価値担保権や知財評価にどのような影響を与えるのでしょうか?
正林: 生成AIは、先行技術の整理、発想支援、明細書作成の補助などに非常に有用です。こうしたAI技術の普及もあり、グローバルに出願件数が増えてきています。この点、AI関連技術の特許出願を分析してみると、日本企業のAI活用は効率化・コスト削減を重視する傾向が見て取れます。しかし、知財の分野を他の分野と同様に単なる「コストを抑えればよい業務」と捉えるのは危ういと言えます。AIは確率的に理路整然とした文章を紡ぐことが得意です。そして、人間はどうしてもそのような文章に惹かれてしまいます。AIを活用して得られたアイデアや技術的示唆を、人間が発明として具体化し、実施可能な形で権利化できるかどうかは、なお慎重に見極める必要があります。
特許出願において欠かせないのは、特許法上の発明に該当するか、実施可能に記載されているかといった法的要件を満たすことです。しかし、それだけでは十分ではありません。権利化するのであれば、その権利が事業において有用なものとするための戦略的判断も必要です。生成AIの進化によって手続き自体は効率化されていきますが、技術の実態を見極め、それをビジネスの成長や競争優位性に結びつける目利きの領域は、最終的には人間の専門的な判断が不可欠です。AIが普及する時代だからこそ、一時的なトレンドに流されることなく権利の質や事業性を見極められることの価値がさらに高まっていくと考えています。
正林和子(しょうばやし・かずこ)◎正林国際特許商標事務所代表社員・所長。正林国際特許商標事務所の創業期より参画。弁理士として25年以上、競争優位を支える知財活用体制の設計と実装に従事。知財戦略の構築、知財ミックス設計、模倣品対策、営業秘密保護、税関差止、標準化・認証支援、オープン&クローズ戦略、IPランドスケープ構築、M&A・上場に伴う知財面の支援など、知財を軸とした領域横断的なテーマを主たる対応分野とし、事業に機能する知財の構築に実務として携わる。


