──なぜ、従来の知財金融は普及しなかったのでしょうか。
正林:知財は事業との関係性の中で捉えてこそ、その価値が明らかになります。ところが、知財を単独の資産として評価するアプローチでは事業との具体的な結びつきが把握しにくく、融資判断の材料として十分に機能させることが困難でした。こうした構造的な問題を踏まえると、知財金融が現場に定着しにくかった背景には、主に4つの課題が挙げられます。
一つ目は、「不可視性」です。不動産と異なり、特許化された技術や秘匿されたノウハウはその価値を外から把握しにくいものです。特許権として法律上の財産権が存在していても、それが事業の中でどのように活用され、いかに収益や競争優位に貢献しているかを読み解くには、経験と知識に裏付けられた専門性が必要です。
二つ目は、「換価価値と事業価値の乖離」です。仮に特許単体に値段がついたとしても、それを実行する人材、設備、販路、顧客、製造体制が揃っていなければ、事業価値に結びつきません。融資判断を行う金融機関にとって重要なのは、その特許権が単独で売れるかではなく、その知財が事業の中で継続的な収益を生み出せるかどうかです。
将来性の見極めに知財評価が不可欠
三つ目は、「ノウハウのジレンマ」です。秘匿してこそ価値があるノウハウを、評価のために過度に開示してしまえば漏洩リスクを招きます。適切に評価を受けたいが見せすぎれば価値を損なう。これが金融の現場で知財を扱う上での大きな障壁になっていました。
そして四つ目が、「従来の融資慣行」そのものです。不動産などの有形資産や経営者保証を重視する金融実務においては、事業を支える要素として知財を評価する仕組みが十分に整備されていませんでした。このため、企業に優れた知財があっても、それを融資判断に反映させることは容易ではなかったのです。
企業にとって事業の優位性や独自性をもたらす知財の評価は、企業の将来を見極める鍵となります。動産、すなわち商品、在庫、設備などに関する評価の視点に知財の評価も加えることで、これまで見抜けなかった企業の実態が、知財・動産・事業基盤を包含した総合的な把握として、より立体的に見えてきます。少なくとも事業性融資の観点から見れば、融資の本来の姿とは、担保の有無ではなく企業の実体と将来性を正面から見極めることにあるのではないでしょうか。そう考えると、企業価値担保権の制度は融資の原点に立ち返る制度と言えると思います。


