25%が「間違った選曲」に傷つく現実
冒頭の4人の女子中高生チームは、夜中に眠れず、孤独や不安を抱える10代をターゲットにした音楽×AIのパーソナライズ・メンタルケアアプリ「Serotune(セロチュン)」を開発した。持続可能な開発目標(SDGs)が掲げるメンタルヘルス対策と福祉の促進を根底に据え、単なる音楽再生アプリではなく、若者が心の拠り所にできる「聖域」として設計されている。
アプリのアイデアを発案した井口咲さん(神奈川県・中学2年生)は、当初「音楽×IT」というテーマで、認知症患者なども含めた広い層へのアプローチを考えていたという。
「自分が作りたいものを文章にして(参加者が集まるコミュニケーションツール「Discord」上で)発信したとき、今のメンバーがすぐに反応してくれました。チームで日本のメンタルヘルスの現状に真剣に向き合い、フィードバックを重ねるうちに、今いちばん救いが必要なのは『夜の孤独や不安と闘っている人たち』なんじゃないかと気づき、ターゲットを絞り込んでいきました」(井口さん)
ビジネスプランの構築に向けて、同世代のティーンエイジャー47名を対象に独自のアンケートを実施した結果、94%が夜の不安や孤独への対処法として音楽を利用していることが判明した。
しかし、同時に思わぬ事実も浮かび上がった。回答者の25%が「自分の感情に合わない明るい曲を聴いて、逆に気分が落ち込んだ」と答えていたのだ。音楽療法の専門家の知見も交え、彼女たちは「間違った選曲は、かえって心の痛みを増幅させる危険性がある」という仮説に行き着いた。
この課題に対し、SerotuneはAIを活用してユーザーのアンケート回答や感情の状態を分析し、それに共鳴するテンポや環境音のプレイリストを自動で生成して提供する。またアプリには、「緊急(エスケープ)ボタン」を実装。夜に気分が落ち込んだとき、このボタンを押すと、再生中の音楽がフェードアウトし、別の穏やかな環境音と励ましのメッセージが流れる。この機能は事前のリサーチで、10代の想定ユーザー層から好意的な反応を得たという。
10代が描く持続可能な収益モデル
審査基準が厳格なTechnovation Girlsでは、単なるアイデアだけでなく、実際にサービスを持続させるためのマネタイズ手段が問われる。
Serotuneのビジネスプランでは、月額800円のプレミアム会員向けの有料課金と、無料会員からの広告収入というハイブリッド型の収益モデルを採用。特筆すべきは、無料会員に配信する広告を「ユーザーのメンタルヘルス(ウェルビーイング)を脅かさない安全なカテゴリに厳選する」と明言している点だ。
また、プライバシーへの配慮から不要な個人データの収集を避け、匿名利用を前提とした。さらに誹謗中傷などをはじめとするユーザー間の有害なやりとりを防ぐため、あえてテキストベースのSNS機能は排除し、各ユーザーの心境に合ったプレイリストを共有し合うだけの「緩やかな連帯」の場に留めている。
倫理とビジネスのトレードオフに逃げず、ユーザーの安全を最優先にしながら収益性を担保する──ビジネスもプロダクト開発も初挑戦の彼女たちが、わずか半年で作り上げたとは思えないほど、解像度の高いビジネスモデルになっている。


