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経営・戦略

2026.06.02 18:00

デビッド・ベッカムのビジネス帝国──名声を1500億円超の資産に変えた戦略

デービッド・ベッカム(Photo by Elsa/Getty Images)

待望の新本拠地で形になったマイアミ計画の現在

4月上旬の蒸し暑い夕暮れ、インテル・マイアミの待望の新本拠地Nu Stadiumには、日没直後から約3万人のファンの大歓声が響いていた。デビッド・ベッカムはその歓声に包まれながら、センターサークルへ歩み出た。

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クラブのエンブレムが入ったネイビーのスーツを着たベッカムの横には、同様な装いの共同オーナーのホルヘ・マスとホセ・マスが立っていた。2025年11月にチャールズ国王からナイトの称号を授与された「サー・デビッド」が、最初に口を開いた。

「私は今から20年前、米国、そしてMLSにやって来た。私の夢は、タイトルを勝ち取り、心から愛するサッカーの地位向上に貢献し、自分のチームを作ることだった」と、ベッカムはiPhoneに表示した原稿を読み上げながら、観客に語りかけた。「そして13年前、私はマイアミを選んだと発表した。その当時、我々には名前も、エンブレムも、スタジアムもなかった」

12年に及んだチーム立ち上げの最大の挑戦

その直後にマンハッタンで行われたフォーブスの取材で、ベッカムは、インテル・マイアミの立ち上げについて、「12年にわたる挑戦だった。私のビジネス人生で最大の挑戦だった」と語った。2014年にMLSの新規参入チームを立ち上げるオプションを行使したベッカムが、他のリーグオーナーの最終承認を得たのは4年後のことで、チームを作り上げるまでに2年を要した。

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ベッカムと共同オーナーが、チームの恒久的な本拠地を探し続けている間、インテル・マイアミはフォートローダーデールの仮設スタジアムで6シーズンを戦った(共同オーナーには当初、ソフトバンクグループCEOの孫正義と、同社元COOのマルセロ・クラウレも名を連ねていた)。

マイアミ港のウォーターフロントに屋外スタジアムを建設する計画は、港湾労組の反対で頓挫した。NBAのマイアミ・ヒートの本拠地近くにあるウォーターフロントの土地も、政治的な事情で取得できなかった。オーバータウン地区の土地をめぐる合意も、地元の反対と長引く法的な障害によって白紙に戻った。

MLSコミッショナーのガーバーは、当時のベッカムについて「彼は寝ずに飛行機を降り、そのまま市議会の会合に駆け込み、終わると車に乗って次の会合へ向かった。彼は決してあきらめなかった」と語る。

汚染地の浄化を経て承認された地区開発計画

2018年夏、ガーバーはベッカムにビリオネアのホルヘ・マスを紹介した。マスは、フロリダを拠点とするMasTecを上場建設・エンジニアリング大手に育て上げた人物だ。「ベッカムとの出会いは、単に意気投合したという言葉では足りない」とマスは語る。「我々はともに、マイアミの可能性を信じていたし、米国はサッカーの国になれると信じていた」

フロリダ州の事情に通じ、込み入った案件をまとめることに長けていたマスは、自らがスタジアム計画を責任を持って引き受けるとベッカムに伝えた。彼らが目をつけたのは、市が所有する約53万平方メートルのメルリース・カントリークラブだった。この土地はヒ素で汚染されており、着工前に1億ドル(約159億円)をかけて浄化する必要があった。

彼らは、この土地を後にマイアミ・フリーダム・パークとなる複合施設に転換する計画を住民投票にかけ、2018年11月に60%の賛成を得て承認を勝ち取った。ただし、条件が2つあった。資金はすべて民間で賄うこと、そして計画はスタジアムだけでなく、約23万5000平方メートルの地区開発を含むことだった。

2021年には、オーナーグループ内の緊張が高まっているとの報道が出るなか、マスとその弟のホセ・マスらがクラウレと孫正義の合計48%の持ち分を買い取った。

現在、チームの日々の運営を担っているのはマス兄弟で、2人は少なくとも70%の最大持ち分を保有している。ただ、ベッカムもクラブに自分らしさをしっかり刻み込んでおり、チームのエンブレムをデザインする際には、ブルックリンのデザインスタジオDoubleday & Cartwrightに対し、過去100年にわたるサッカークラブの盾形エンブレムを100種類見せるよう求めた。そのうえで、サギのモチーフ、全体の形、そしてピンクの色味を決めた。「このピンクを、クラブの象徴にしたかった」とベッカムは語る。

メッシ加入で変わったクラブの年間売上高の規模

ベッカムはまた、チームの選手構成にも強いこだわりを見せた。彼が長年注目していたのが、サッカー史上最高の選手とも言われるリオネル・メッシだった。2018年にパートナーらに示した初期のブランディング資料で彼は、最後のスライドにインテル・マイアミのユニフォームを着たメッシの合成画像を入れていた。当時、メッシ本人はまだクラブに関心を示していなかった。

その後、ベッカムは約4年にわたって交渉を続け、バルセロナでは、マスとともにメッシの父親と極秘に会談したこともあった。最終的にメッシは2023年7月、サウジアラビアから提示されたと報じられた4億ドル(約636億円)のオファーを断り、インテル・マイアミと契約を結んだ。年間保証収入は5000万〜6000万ドル(約79億5000万〜約95億4000万円)で、それに加えて、MLSのスポンサーであるアップルとアディダスからの収益を分け合う契約も結んだ。

「メッシ効果」はクラブを一気に別次元へ押し上げた。チケット販売、新規スポンサー、世界ツアーが急拡大し、年間売上高は7000万ドル(約111億3000万円)未満から2億5000万ドル(約397億5000万円)へ跳ね上がった。フロリダ州出身のヘッジファンド業界ビリオネア、ベッカムの友人ケン・グリフィンは「インテル・マイアミが新たな投資家を受け入れることがあれば、私は非常に関心がある」と語る。

メッシ引退後の不安を先送りした契約延長の効果

ただし、インテル・マイアミへの出資には相当な資金が必要になる。評価額が約14億ドル(約2226億円)に達した同チームは現在、MLSで最も価値の高いチームとなっている。これはMLSの平均的なチーム価値のほぼ2倍だ。しかも、この評価額には、パートナーらが99年リース契約を結んでいるNu Stadiumの価値も、2028年の完成を予定しているマイアミ・フリーダム・パークの残りの開発価値も含まれていない。

今後の大きな焦点は、38歳のメッシが引退した後、チームがどうなるかだ。ただ、その不安は10月にいったん先送りされた。メッシが2028年シーズンまで契約を延長したからだ。しかも、メッシは引退後もインテル・マイアミとの関係を維持する可能性がある。メッシ自身にも、同クラブの少数株式を取得できるオプションがあり、スパイクを脱いだ後は、ベッカムと同じオーナー席に加わる可能性がある。

自分がいなくなった後も何かを残したいと語るベッカム

最近のベッカムは、自分のレガシーを強く意識しているようだ。ベッカムとビクトリアには、ブルックリン(27)、ロメオ(23)、クルーズ(21)、ハーパー(14)の4人の子どもがいる。ブルックリンについては2022年、ウォール街のビリオネアであるネルソン・ペルツの娘ニコラ・ペルツと結婚して以降、家族との不仲がたびたび報じられてきた。この確執はタブロイド紙の格好のネタになり続けているが、ベッカム夫妻はほとんどコメントしていない。ベッカムはあるとき、「家族があのスタジアムに足を踏み入れたとき、『これは父さんが築いたものだ』と分かってほしい」と語っていた。一方で、彼はレガシーをもっと大きな意味で語ることもある。

「チームを買う権利を契約に盛り込んだとき、私が考えていたのは純粋にレガシーだった。それは、米国への約束であり、MLSへの約束であり、サッカーへの約束だった。自分がいなくなった後にも、何かを残したい」とベッカムは語った。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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