サイエンス

2026.05.26 18:00

人がキスをする本当の理由 2100万年前の祖先から続く、進化生物学の物語

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2. 遺伝的適合性仮説(The genetic compatibility hypothesis)

この仮説は、より驚きを誘うものであり、率直に言って、少し謙虚な気持ちにさせられる。二人がキスをするとき、知らず知らずのうちに、互いに対して生物学的検査を行なっているという説だ。

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免疫機能の中心を担う遺伝子群である「主要組織適合遺伝子複合体(MHC:major histocompatibility complex)」に関する研究により、人間は無意識のうちに、自分とは異なるMHCプロファイルを持つパートナーに引き寄せられることが明らかになった。そのメカニズムは、主に嗅覚によるものと考えられる。

『Proceedings of the Royal Society B』に発表された1995年の研究では、女性は一貫して、自分とはMHCプロファイルが異なる男性が着用したTシャツの香りを好むことが示された。

その進化論的根拠は単純明快だ。MHCプロファイルが異なるパートナーのあいだに生まれた子どもは、より幅広い免疫レパートリーを持ち、より多様な病原体と戦う能力を持つ。MHCプロファイルの相違が大きいカップルほど、体外受精による妊娠成功率が高く、妊娠間隔は短く、流産率が低い。

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『Scientific Reports』に発表された研究では、ヒト固有のMHCである「HLA(ヒト白血球抗原:Human Leukocyte Antigen)」の相違点が、パートナーとの関係性の質や、性的満足度と関連していることが明らかになった。

親密さや、身体的な接近、唾液の交換を伴うキスは、私たちがこうした遺伝的な情報を得るためのメカニズムなのかもしれない。つまり、初めてのキスがうまくいかないのは、テクニックの問題ではなく、あなたの免疫系が何かを伝えているのかもしれない。

3. 神経化学的な絆仮説(The neurochemical bonding hypothesis)

この仮説は、なぜ私たちが、すでに評価し、選んだ相手とキスを続けるのかを説明している。キスは、脳内で化学反応の連鎖を引き起こす。欲望や報酬に関わるドーパミン、信頼や愛着に関わるオキシトシン(「愛のホルモン」とも呼ばれる)、そして、安らぎや落ち着きをもたらすエンドルフィンだ。

『Psychoneuroendocrinology』に発表された研究では、オキシトシンは、二人の絆において重要な役割を果たしており、その放出は、身体的な親密さによって引き起こされることが示されている。このモデルにおいてキスは、長期的な絆を維持するための化学物質を届けるメカニズムであり、関係の新鮮さが薄れた後も、愛着を保ち続ける役割を果たしている。

以上3つの仮説を総合すると、それらは互いに競合し合う説明ではなく、互いに補完し合う重層的なレイヤー(層)と言える。キスはおそらく、グルーミングとして始まった。その後、遺伝的評価の手段として取り入れられた。そして、それが進化の過程で維持されてきたのは、キスがもたらす強力な神経化学的報酬のためだ。

それぞれの層が互いを強化し合い、社会的衛生の一形態だった行為を、人間の行動レパートリーの中でも最も感情的な行為の一つへと変貌させたのだ。

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翻訳=米井香織/ガリレオ

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