かつて「モーターシティ」として世界の自動車産業を牽引したデトロイト。しかし1970年代以降、その栄光は急速に色あせていった。
グローバル化の波の中で製造拠点は海外へ移転し、産業は空洞化。人口はピーク時の約180万人から70万人以下にまで減少し、治安の悪化や都市機能の崩壊が深刻化した。2013年には米国史上最大規模の財政破綻を経験し、デトロイトは「アメリカ製造業衰退の象徴」とまで言われるようになった。
だが、そのデトロイトが今、「米国の再工業化」をテーマに大きく変わり始めている。
「都市再生」と「再工業化」──二つの波
この変化の背景には、大きく二つの潮流がある。
一つは都市再生だ。その象徴的存在が、ビリオネアであり地元の起業家でもあるダン・ギルバート(Dan Gilbert)である。
彼は自身が率いる住宅ローン企業Rocket Mortgageの本社を、2010年、当時なお治安への懸念が残っていたダウンタウンへ移転した。その後、自らの不動産会社を通じて数十億ドル規模の再開発を推進。オフィス、住宅、商業施設が次々と整備され、街の景観は劇的に変化した。若者やスタートアップが戻り始め、かつてゴーストタウン化していた中心街には再び活気が生まれている。
そしてもう一つが、近年顕著になっている「再工業化(Reindustrialization)」の流れだ。
米中対立やサプライチェーンの分断、パンデミックによる供給不安などを背景に、米国では製造拠点の国内回帰(リショアリング)が急速に進んでいる。「安全保障」「レジリエンス」「技術主権」といったキーワードのもと、製造業の戦略的重要性が改めて認識されている。
この流れの中で、デトロイトは再び脚光を浴びている。理由は明確だ。——「作れる街」であること。高度な製造技術、熟練した人材、部品サプライヤーの集積。これらは一朝一夕では構築できない「産業インフラ」であり、デトロイトはそれを今なお保持しているからだ。
ハードウェア・スタートアップの集積地へ
その象徴的な存在が、デトロイト中心部に位置する「Newlab Detroit」だ。
もともとニューヨーク・ブルックリンで設立されたNewlabは、「ハードテック」のスタートアップ向けインキュベーション拠点として知られる。2023年、ミシガン州およびデトロイト市とのパートナーシップのもと、旧ミシガン中央駅の再開発エリアに大規模拠点を開設した。
ここには、ロボティクス、エネルギー、モビリティ、先端製造といった分野のスタートアップが集結している。
さらに注目すべきは、その地下に設けられた「Beacon Manufacturing」だ。
ここでは、ハードウェア系スタートアップが試作品(プロトタイプ)を迅速に開発できるよう、CNC加工機や3Dプリンターなどの設備が整備されている。単なるコワーキングスペースではなく、「作る」ための実験場である。



