経済・社会

2026.06.16 14:15

女性の健康課題による経済損失、年約3.4兆━━女性の健康は「未開拓の戦略市場」へ

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本連載では、ブランズウィック・グループが発行する国的な知見誌 Brunswick Review から、グローバルの構造変化を読み解いている。

第6回は、Brunswick Review 2024に掲載された「女性の健康:光を当てる」を取り上げたい。本稿では、同特集の示す市場動向に加え、近年顕在化している「エイジングの価値転換」という視点から、日本企業への示唆を考察する。


1|女性の健康はなぜ見過ごされてきたのか

女性の健康は、長らく医療・研究の主流から外れてきた。象徴的なのは、1970年代に実施された心疾患研究において、閉経後女性のリスクを検証するにもかかわらず、被験者が全員男性だったという事実である。女性の身体は標準ではなく「例外」として扱われてきた歴史がある。

その影響は現在も残る。子宮内膜症は世界で約1億9千万人に影響するが、診断までに平均6年以上を要する。更年期に伴う症状についても、医療機関で診断を受けている女性は約2割にとどまる。これは医療アクセスの問題というより、「病気として認識されにくい」構造を示している。

では、なぜこのような状況が長く続いてきたのか。

一つの重要な要因として考えられるのが、意思決定層におけるジェンダー構成である。医療研究、製薬企業、政策立案、さらには企業経営の領域において、歴史的に意思決定を担ってきたのは男性が中心であった。その結果、女性特有の健康課題は、優先度の高いアジェンダとして取り上げられにくかった可能性がある。

これは必ずしも意図的な排除ではない。むしろ、意思決定者自身の経験に基づく「問題認識の範囲」に依存した結果である。例えば、更年期症状のように当事者でなければ理解しにくい課題は、政策や研究投資の優先順位において後回しになりやすい。結果として、研究資金、臨床データ、診断基準の整備が遅れ、それがさらに問題の可視化を妨げるというネガティブな循環が生まれてきた。

実際、ブランズウィックの分析でも、2010年代半ば以降に英米の主要メディアやSNSで更年期や子宮内膜症に関する言及が急増していることが確認されている。これは、女性自身が声を上げ、議論が公の場に現れ始めて、ようやく課題が「社会問題」として認識されるようになったことを意味する。

国際比較の観点でも、この差は明確である。欧米では、女性の社会進出の進展とともに政策・企業の意思決定層にも女性が増え、結果として女性の健康が国家戦略として位置づけられるようになった。一方、日本では意思決定層における女性比率が依然として低く、健康課題の優先順位付けにおいても影響を与えていると考えられる。

こうした構造のもとで、女性の健康は長く「個人の問題」として処理されてきた。しかし実態は異なる。女性は男性より長寿である一方、生涯の25%以上を病気や障害とともに過ごしているとされる。この健康格差を縮小すれば、2040年までに世界経済を最大1兆ドル(約150兆円)押し上げる可能性があると試算されている。

日本においても、女性の健康課題による経済損失は年間約3.4兆円に達するとされる。それにもかかわらず、これらの問題は依然として個人の領域に閉じ込められ、企業経営や国家の成長戦略の中核には据えられていない。

女性の健康が見過ごされてきた背景には、医学的な遅れだけでなく、「誰が意思決定してきたのか」という構造的な問題が存在する。その構造が変わりつつある今、初めてこの領域は市場としても立ち上がり始めている。

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文=唐木明子

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