経済・社会

2026.06.16 14:15

女性の健康課題による経済損失、年約3.4兆━━女性の健康は「未開拓の戦略市場」へ

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4|日本に残された戦略機会──ステークホルダー別にみる打ち手

前章までで見てきた通り、日本は「認識」は進みつつあるものの、「制度」と「資本」が接続されていない段階にある。この状況を打開するには、単一の主体による取り組みでは不十分であり、ステークホルダーごとに異なる役割を明確にする必要がある。

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まず政府に求められるのは、「需要の可視化」と「市場の前提条件の整備」である。欧米の事例が示す通り、市場は政策によって初めて立ち上がる。日本でも実証事業は始まっているが、単年度の補助金にとどまらず、研究投資の中長期化や診療ガイドライン整備、データ基盤の標準化といった制度設計に踏み込む必要がある。特に、更年期や慢性症状に関する医療・労働データを横断的に整備することは、市場形成の前提となる。

次に企業である。企業にとって女性の健康は、もはや福利厚生ではなく人的資本戦略そのものである。欧米では、雇用主を起点としたB2Bモデルが市場拡大のドライバーとなった。日本企業も同様に、更年期支援や健康データの活用を「コスト」ではなく「生産性投資」として再定義する必要がある。特に、離職防止やパフォーマンス維持といった経営指標と結びつけて評価することで、初めて意思決定の優先順位が上がる。

スタートアップおよびヘルスケア事業者にとっての機会は、「未可視領域のサービス化」にある。日本では月経・妊活領域は一定程度サービス化されているが、更年期や慢性症状領域は依然として空白が大きい。ここで重要なのは、単なる医療サービスではなく、データ、コーチング、そしてコミュニティを統合したプラットフォーム設計である。海外事例が示す通り、継続的な関与モデルこそがスケールの鍵となる。

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投資家の役割も大きい。これまで日本では、女性の健康は「市場が小さい」と見なされがちであった。しかし実際には、需要が顕在化していないだけであり、人口動態を踏まえれば極めて大きな潜在市場である。欧米ではすでに、ベンチャーキャピタルに加え、保険会社や年金基金といった長期資本が参入している。日本でも、短期リターンではなくライフタイムバリューを前提とした投資視点への転換が求められる。

最後に、当事者である生活者の役割も見逃せない。第1章で見た通り、この市場は「声が可視化されること」によって初めて動き出した。症状を語ること、データを共有すること、サービスを利用すること自体が市場形成の一部である。これは単なる消費行動ではなく、市場の前提を作る行為である。

整理すると、日本における課題は「何をすべきかが分からない」ことではない。それぞれの主体が断片的に動いているが、それが構造として統合されていない点にある。

女性の健康市場は、単一のプレイヤーが牽引するものではない。政策、企業、スタートアップ、投資家、そして生活者がそれぞれの役割を果たし、それが接続されたときに初めて成立する。
日本はまだその接続の途上にある。しかし逆に言えば、今この段階だからこそ、構造全体を設計できる余地が残されているとも言える。

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文=唐木明子

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