経営・戦略

2026.05.21 09:00

「メディア王」マードックの末息子、対立する父の縄張りに殴り込み──米メディアを約470億円で買収

Bryan Bedder/Getty Images for National Geographic

Bryan Bedder/Getty Images for National Geographic

メディア業界の伝説的な経営者ルパート・マードックの末息子であり、近年「女性差別的」で「歪んだ」父親との決別を公にしていたジェームズ・マードックが、リベラル寄りのヴォックス・メディア株の約半数を取得する。これにより、彼の投資会社は突如として米国メディア業界の主要プレイヤーとなった。

2020年にニューズ・コープの取締役を辞任し、世間の注目を集めた兄ラクランとの権力闘争に敗れて以来、父親やニューズ・コープと対立してきたジェームズ・マードックは、3億ドル(約474億円。1ドル=158円換算)でヴォックスが展開するポッドキャスト事業、Vox.com、およびニューヨーク・マガジンを買収し、自身の投資会社ルーパ・システムズの傘下に収める。

この買収により、ジェームズは現在95歳の父親が支配的な地位をもつメディア業界において、より大きな影響力を持つことになる。父親のルパートは1950年代にオーストラリアのアデレードでメディア帝国を築き始め、今やフォックス・コーポレーション(FOXニュース、FOXスポーツ、地方テレビ局などを傘下に持つ)やニューズ・コープ(ウォール・ストリート・ジャーナル、ニューヨーク・ポスト、出版社のハーパーコリンズ、その他多くの英国やオーストラリアの報道機関を傘下に持つ)を擁するまでに成長させた。

ジェームズは、父親のメディア企業が気候変動について視聴者に意図的な「嘘」をつき、ドナルド・トランプ大統領の利益になるよう右派の陰謀論を煽っていると批判してきた。

ルパートは2025年に行われたトランプの大統領就任式に出席した一方で、ジェームズは2020年にジョー・バイデンと彼を支持する団体に2000万ドル(約32億円)以上を寄付している。

マードック家はニューズ・コープの支配権をめぐる闘争を繰り広げてきた。ルパートは、自身の会社を保守的な長男のラクラン(54歳)に継がせるため、ジェームズ(53歳)と、その姉であるプルーデンス(67歳)およびエリザベス(57歳)を家族信託から排除することを目指していた。

一家は最終的に和解に達し、ニューズ・コープの会長、およびフォックス・コーポレーションのCEOを務めるラクランが2050年まで帝国の支配権を握る代わりに、他の子どもたちはそれぞれ11億ドル(約1738億円)を受け取ることで合意したと報じられている。

ルパート・マードックはかつてニューヨーク・マガジンを所有していた。彼は1977年にその親会社を買収したが、1991年に6億5000万ドル(約1027億円)でK3コミュニケーションズに売却している。その後、今回ジェームズが買収したヴォックスが2019年に同誌を傘下に収めているが、彼はニューヨーク・タイムズに対し、父親がかつて同誌を所有していたことは自分にとって特別な意味を持たないと語った。

ジェームズと妻のキャスリンは、2020年に発生したオーストラリアの大規模な森林火災の際、ニューズ・コープやフォックス傘下の報道機関が気候変動を「否定し続けている」として非難した。英紙ガーディアンによると、ジェームズは環境保護を長年訴えてきた一方で、父親のルパートは自身のことを「懐疑論者」と表現している。

ジェームズはアトランティック誌のインタビューで、2016年の大統領選において兄のラクランが「反動的」な思想や「ホワイト・ネイティヴィズム(白人による排外的な思想)」に迎合したことに「不意を突かれた」と語っている。また、トランプを支持することがFOXニュースのビジネスにとって有益だと気づいたからこそ、彼の父親は方針を転換したのだとも述べた。

「営利的な動機が人や企業にどれほど恐ろしいことを平気でさせるか、その影響力を私は見くびっていた」とジェームズは語る。また、彼はニューヨーク・タイムズに対し、父親とは「10代の頃から」政治思想面で対立してきたと述べている。

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翻訳=江津拓哉

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