町中華は地域の神を祀る神社のごとし
町中華を語るうえで、もう1人忘れてはならないのは、BS-TBSのテレビ番組『町中華で飲ろうぜ!』で知られる芸人の玉袋筋太郎さんの世界観だろう。
番組放送3周年を記念したガイド書『町中華で飲ろうぜ オフィシャルブック編』(東京ニュース通信社、2022年)には、玉袋さんと女性タレントらが訪ねた32店が紹介されているのだが、冒頭のインタビューで彼は「町中華は地域の神を祀る神社のごとし」という名言を述べている。
こうしたそれぞれの地元に根づいた食文化として町中華を捉える発想は新鮮で、なるほどと思ったのだが、玉袋さんが好むひとり飲みの場所という位置付けは、このところ何軒かの町中華を訪ねることで、筆者も実感した。
実際、ひとり飲み客が多く、なかには女性もけっこういた。そこには店主と客をゆるくつなぐ安らぎを感じさせる独特の情緒というものが確かにあった。
さて、この1カ月というもの、町中華を訪ね、ガチ中華とのいくつかの違いに気づいた。
例えば、先ほどの町中華の味を特徴づける「化調」に対して、ガチ中華の味の新しさは、同じシビレでも最近流行のマーラータンに象徴される中華山椒「花椒」であることだ。
また町中華探検隊の本に必ず出てくる料理の配達手段が「出前バイク」であるのに対し、ガチ中華の場合、2010年代半ばという同じ時期に出現したウーバーイーツに代表される「デリバリー」サービスだ。
さらに言えば、町中華探検隊が「急速に減りつつある」町中華を「記録」しようとしてきたのに対し、筆者が主宰する東京ディープチャイナ研究会ではガチ中華を「発掘」の対象としていることだろう。
なぜ発掘かといえば、次々と未知なる新しい料理が現れるからである。
もっとも、北尾さんには共感するところも多い。例えば、彼はよく人から「おすすめ町中華」を尋ねられるそうだが、次のように書いている。
「え、町中華にまでおいしさを求めるの? 名店の基準は味だけではないでしょ」(『町中華探検隊がゆく!』のプロローグ)。
実は、筆者のガチ中華に対するアプローチも似ていて、「発掘」の目的は料理の新しさを見出すだけでなく、その出現の経緯や秘められた謎を探っていくところに面白さがあるのである。
そんなことを考えながら、いま筆者が訪ねてみたいと思っているのは、先ほどの「新京」ではないが、戦後、中国大陸から引き揚げて来た人たちが始めた「引揚者」の系譜の店である。
すでに創業世代はほとんどいないだろうが、以前に筆者が書いたコラム「『引き揚げ』世代最後の親睦会『安東会』と東京で味わう現代満洲料理」で述べた歴史的関心から、その系譜の店に何か特別な特徴があるのか、気になるのだ(いまとなっては、ないかもしれないが……)。


