胃について考えてみよう。人類の胃液の酸度はだいたいpH1.5と、ほかの雑食動物と比べてはるかに高く、腐肉を専門にあさるスカベンジャーとほぼ同じだ。その酸度を保つためには、代謝に大きな負担がかかる。
消化器系生理学の分野で詳しく解明されているように、胃液の酸度が高いことには、二つの目的がある。一つ目は、密度の高い動物性たんぱく質を分解すること。もう一つは、古い肉の中に増殖していた細菌を死滅させることだ。たまたま出くわしたウサギのような、新鮮な肉のみを食べる種は、こうした消化の化学的性質を持たない。
脳についても、見ていく必要がある。人類の脳は、いかなる生物学的な尺度から見ても、体の大きさと比べて桁外れに大きい。そして、脳を作り上げて動かすためには、鉄分、亜鉛、ビタミンB12、長鎖オメガ3脂肪酸(特にDHA)を継続的に供給する必要がある。これらの栄養素は、植物にも含まれているとはいえ、濃度は低く、たいていは吸収されにくい形態をしている。一方、動物の組織にはたっぷり含まれている。
『Current Anthropology』で1995年に掲載された論文において、「高価な組織仮説(expensive tissue hypothesis)」という画期的な説が発表された。人類の脳が飛躍的に巨大化できたのは、動物性食物に含まれる、より質が高くてエネルギー密度の高い食生活に切り替わったことが一因だとする説だ(そして、動物性食物が中心になったことで、消化管は小さくなった)。
人類が肉に依存するようになったことを示す古生物病理学のエビデンスの中で最も目を引くものは、タンザニアで発見された、150万年前の子どもの頭蓋骨のかけらだった。この骨には、ビタミンB12不足と関連する疾患「多孔性骨過形成(porotic hyperostosis:頭蓋骨の円蓋部などに、スポンジ状の微細な孔が無数に開く病変)」が見つかっている。ビタミンB12は、動物性食品にしか含まれていない栄養素だ。
この解釈が正しければ、その頃には、人類にとって肉食は単に有益であるばかりか、生理学的に不可欠なものになっていたことが示されている。われわれ人類の体は、特定の栄養素を体内で合成することをやめて代謝コストを手放し、それを外部から調達するようになったのだ。これは、「栄養依存(dietary dependence)」の生物学的定義だ。
人類の祖先は、植物より肉を好んだのか
肉食の証拠だけを見れば、人類は絶対的な肉食動物なのかと思うだろう。しかしご存じのとおり、私たちは絶対的肉食動物ではない。ヒト生物学の分野では、植物性食物への適応を示す、深く重要なエビデンスが存在しており、それらも等しく事実だ。単に、その証拠を土壌中で見つけるのがより難しいにすぎない。
「見つけるのが難しい」という点は、「一応の注意事項」などではない。これは、純粋な方法論的問題だ。動物の骨や石器、石灰化した組織は、何百万年が過ぎても消えずに残るが、塊茎(イモ類)や種子、葉や果実となるとそうはいかない。残っている考古学的な記録が偏っているせいで、人類の祖先の食生活を復元する時には、必ずと言ってよいほど、分類学的に肉が過度に強調されてしまうのだ。
植物性食物は、かすかな痕跡しか残さない。例えば、石臼の表面に残っているごく微細なでんぷん粒や、古代の堆積物に含まれるプラント・オパール(植物に土壌のケイ酸が蓄積して結晶化した珪酸体)、あるいは、まれに発見される炭化した種子といったものだ。そして、そうした痕跡を見つけるには、非常に慎重な発掘作業を要する。
ただし、多くの化石発掘現場で、そうした植物性食物の痕跡がほとんど見つからないからと言って、人類が植物を食べていなかった証拠にはならない。


