経営・戦略

2026.06.05 18:00

黒字を貫いて50年、アナリティクス企業SASはAI時代に適応できるか

SASの共同創業者兼CEO、ジム・グッドナイト(Photo by Brad Barket/Getty Images for Time Inc.)

デジタルツインや量子計算、リバプール提携にも挑む

ハリスは、Epic Gamesとの提携を通じたデジタルツイン事業に、新たな収益源として期待を寄せている。製造工場のような複雑な物理施設をAIで再現したデジタルツインは、施設内の最も効率的な配置の検討に使われる。作業員を危険にさらさずに安全上の事故を予測したり、仮想環境でテストを実施したりする用途もある。

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たとえば紙製品メーカーのジョージア・パシフィックは、サバンナ・リバー工場でロボットのテストや訓練を行うためにデジタルツインを活用し、コストを抑えながら従業員の安全を守っている。SASのデジタルツイン事業の現在の売上高は、数百万ドル(数億円)規模にとどまるが、ハリスは3〜4年以内に5億ドル(約795億円)規模へ成長できると見ている。

SASは、銀行の不正検知など、従来型のコンピューターでは処理しきれない極めて複雑な取引を扱うため、量子コンピューティングの活用も試している。同社は、データとAIを使ってスポーツチームを支援することも計画している。2025年12月には、サッカーチームのリバプールがファン向けマーケティングを改善できるよう、同社製品を活用する提携を発表した。創業50周年のカンファレンスでは、AIエージェントを組み込んだ複数の新ツールも発表した。

「SASは、どんな問題にも手を広げようとする会社だ。それは強みでもあり、弱みにもなる」と、IDCのリサーチディレクターで、かつてSASに勤務していたキャシー・ラングは語り、SASが重点分野を絞ることからメリットを得られることを示唆した。

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IPOを望むが「40%ルール」は半分、買収提案には応じず

グッドナイトは現在もIPOを望んでいる。SASを切り売りせず、自身の持ち分の一部を現金化するには、それが最善の方法だと考えているからだ。同社が上場準備を進めていると初めて明らかにしてから5年が過ぎ、IPO市場の環境は大きく変わった。上場に踏み切るタイミングは以前より難しくなっている。「SpaceXに投資家の資金を全部持っていかれた後に上場したくはない」と彼は語る。

上場に向けては、財務指標も整える必要がある。グッドナイトは、ロードショー(投資家向け説明会)に入る前に、ソフトウェア企業の評価指標である「40%ルール」を満たしたいと考えている。売上高成長率と利益率の合計が40%に達していれば、急成長する競合と比べられても、上場市場で株価を支える材料になり得るからだ。SASの売上高成長率と利益率はいずれも約10%にとどまり、グッドナイトによれば、目標の半分にも届いていない。

CFOのマット・パーソンが重視しているのは、IPOに限らず、複数の出口を用意しておくことだ。SASは上場できる状態を整えておく必要がある。それがグッドナイトとソールが持ち分の一部を現金化する唯一の手段であってはならない。創業者2人の子どもは、会社を継ぐ予定がないものの、グッドナイトとソールは、彼らに現金資産を残したいと考えている可能性がある。2人はこれまで、SASから多くの資金を引き出してこなかった。同社は少額の配当を支払っているものの、創業以来、利益の大半、つまり数十億ドル(数千億円)を事業に再投資してきた。

そのためパーソンは、IPOが実現しない場合に備え、買収や外部からの出資といった別の選択肢にも対応できるよう会社を整えておきたいと考えている。SASには日常的に買収提案が寄せられているが、グッドナイトはどれも真剣に検討してこなかった。公に報じられた直近の提案は、2021年のブロードコムによる150億〜200億ドル(約2.39兆円〜3.18兆円)の買収提案だった。この案件は進展していたが、最終的にグッドナイトが考えを変えた。パーソンによれば、適切なパートナーが現れれば、少数持ち分の取得を伴う出資は選択肢になり得る。SASが黒字を維持できるなら、当面は現在の形を保つこともできる。つまり、創業者所有の非上場企業であり続けるという道だ。

自身が取り壊しに加わったベルリンの壁の一部の前に立ち、ブラックコーヒーをすするグッドナイトは、リスクに慎重な姿勢を崩さなかった。彼は、自らが築いた物語の表舞台から退こうとしている。

「私のことなど、誰も知らなくていいんだ」と、グッドナイトはウインクしながら語った。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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