鶏カメラ案を却下、AI投資の90%を「無駄」と批判
3年前、CTOのハリスはグッドナイトに新事業のアイデアを提案した。農場の映像をコンピュータービジョンで分析し、鶏の間で病気がどのように広がるかを把握するというものだった。このツールは、養鶏業者が群れの健康を保つのに役立つはずだった。グッドナイトは、「カメラはいくらするのか。養鶏業者が払うわけがない」という一言で、この構想を退けた。
養鶏業者のような顧客にとっても、SASにとっても、コストと収益性は避けて通れない問題だ。グッドナイトは何十年にもわたり、その点に徹底して目を向けてきた。AIイノベーションに投じられる資金の90%は無駄になっていると批判する彼は、SASが黒字幅を広げる必要があるとも繰り返し強調してきた。
グッドナイトは、SASが長く生き残ってきた理由が、急成長を犠牲にしてでも利益を守ろうとする姿勢にあると考えている。Anthropicは過去3年間、売上高を前年比で約10倍のペースで伸ばしてきたと報じられている。SASの直近四半期の売上高成長率は9%だった。この数字は、「ソフトウェア企業が2029年まで年率約10%で成長する」というMorningstarの予測とおおむね一致している。
約1560億円をAIに投資のSAS、Palantirに政府契約を奪われる
グッドナイトは、AI企業の成長ペースは「少し緩める必要がある」と考えている。とはいえ、SASが市場の変化を無視してきたわけではない。同社は2023年、AIを活用した製品の開発に向け、3年間で10億ドル(約1590億円)を投じる計画を発表した。「いずれにしても、それくらい使うことになりそうだった。だから発表しただけだ」とグッドナイトは淡々と語る。
問題は、この分野には競合がひしめいていることだ。同社の前には、AIにいち早く、より大きく賭けた競合が立ちはだかっている。巨大企業ではマイクロソフト、アマゾン、オラクルがいる。比較的新しい勢力としては、Snowflake、Databricks、Alteryxなどがある。公共部門では、PalantirがSASや他社から米政府契約を奪っている。Palantirの米政府向け売上高は2025年、SASの政府向け売上高全体の約2倍に相当する規模で増加した。
銀行や規制産業に寄り添い、競合とも連携
SASの基本姿勢は、顧客が最も不安を感じている領域に寄り添うことだ。同社はほぼすべての大手銀行と4大会計事務所を顧客に持ち、金融機関や会計事務所が不正検知や金融リスク管理にAIを安全で追跡可能な形で活用できるよう支援している。ヘルスケア、政府、金融などの規制産業は、慎重さを強みにしてきたSASにとって本来得意な領域だ。それでも、こうした分野でも競争圧力は高まっている。Anthropicは業界の専門家を採用しており、5月には同じ顧客層を直接狙う金融サービス向け製品群を発表した。
「誰もが、競争相手とも協力する状態にある」とハリスは語る。顧客からは、SASを競合他社の製品と連携させてほしいという要望も出ており、同社はそれに快く応じてきた。
その結果、SASは同業他社の中でも特に柔軟な存在になっている。顧客がデータ分析をクラウド上で行いたいなら、マイクロソフトでもアマゾンでも、希望する環境に合わせて対応できる。オンプレミスで処理したい場合も、SASは対応する。しかも、顧客が選ぶプログラミング言語で実行できる。これは病院や政府機関では重要な意味を持つ。国内外で機密性の高いデータと規制がぶつかる場面では、なおさらだ。SASが顧客を招いて会議を行う幹部棟のスクリーンには最近、「UAE政府代表団の皆さま、ようこそ」と表示されていた。


