縄文時代のひとつ前、およそ1万6000年前の旧石器時代、人々が槍を掲げてマンモスを追いかけるというイメージ(漫画の影響も強いが)がある。だが実際はそうではなかった。遺跡から発掘されたほんの小さな骨片から動物を特定する新技術により、当時のリアルが見えてきた。
新潟医療福祉大学、東京大学、高輝度光科学研究センターなどによる共同研究グループは、長崎県佐世保市の旧石器時代の遺跡「福井洞窟」から出土した微小な焼骨片を最新の技法で分析し、当時の人たちが狩っていた動物を明らかにした。
焼骨片とは、高温で焼かれてタンパク質やDNAが失われた骨の断片のこと。日本の旧石器時代の遺跡は、酸性土壌や気候の影響で骨の保存状態が悪く、動物の骨はほとんど見つかっていない。福井洞窟から見つかったものも、1センチメートル未満の微小な焼骨片で、肉眼での識別が不可能だった。

そこで研究グループは、焼骨片を放射光X線CTによるイメージング技術で、さまざまな方向からその透過像を撮影した。それをコンピューター上で再構成し、内部の微細構造を3Dで可視化した。そして、骨を構成する同心円状の層板構造「オステオン」と、その中心にある血管が通るハバース管をもとに、さまざまな標本と統計的に比較することにより、動物の種類を同定することに成功したのだ。
それによると、ナウマンゾウ、ヤベオオツノジカ、バイソン、クマといった大型哺乳類、およびヒトのものである可能性は否定され、ニホンジカやイノシシなどの中型偶蹄類がおもな狩猟対象であったことが判明した。

昔の社会科の教科書に載っていた、毛皮を着た原始人が槍でマンモスを倒している図とは違い、ごく平凡で日常的な印象だ。だがそれが1万6000年前の日本のリアルだったわけだ。
今回用いられた手法は、当時の人が何を狩って食べていたかだけでなく、旧石器時代の動物利用、大型哺乳類の絶滅過程を明らかにするうえで有効なアプローチになるとのこと。非破壊による分析なので、文化財保護の観点からも有用になると、研究グループは話している。



