新規採用者のほうが高い報酬を得ている場合、真っ先に職場を去っていくのは既に高い成果を挙げている"優秀な社員”である。米経営誌『Harvard Business Review(HBR)』が2024年に発表した分析によると、2400万件超の従業員記録を調べた結果、通常は退職者に占めるハイパフォーマーの割合が4人に1人程度であるのに対して、より高給の新規採用者がチームに加わった後はその割合が3人に1人以上へ跳ね上がっていた。この結果が提示する問題は、なぜ賃金格差が優秀な社員に最も強く影響するのか、である。
HBRは2018年から2023年にかけて、米国・カナダ・欧州の企業約100社を対象に賃金格差に関する調査を実施した。その結果、企業が既存の従業員に支払う賃金の見直しを怠ると、優秀な社員は2倍以上の速さで退職することがわかった。ほかの研究もそれを裏づけている。給与データ分析大手の米Payscaleの報告「2026 Compensation Best Practices Report」によれば、新しく入社した従業員と勤続年数の長い従業員で賃金の差が少ないことが、古参の従業員に「不公平だ」という認識をもたらす、と雇用主の33%が回答した。
賃金格差は単なる金銭の問題ではない。不公平という認識、企業の対応スピード、そして調整があまりにも遅いときに失われる信頼の問題なのだ。年次評価まで賃金格差の解消を先送りする企業は、優秀な社員と彼らが有する組織知、さらに彼らが率いるチームを失うリスクを負う。
優秀な社員は賃金格差にすぐ気づく
優秀な社員は、自分の報酬が貢献と釣り合わなくなったとき、真っ先にそれに気づくことが多い。彼らは市場動向を追い、リクルーターと話し、自分を同業の同僚と比較して位置づける傾向がある。近年は、給与の透明性に関する法律が拡大して報酬データを入手しやすくなったため、その比較はいっそう容易になっている。
HBRの調査によると、既存の従業員が新規採用者の正確な給与を見られない場合でも、新しい同僚の入社をきっかけに自分の報酬が公正かどうかを再評価し始めることがわかった。より高給を得ている新規採用者の存在は、すでに抱いていた疑念を確信に変えるだけかもしれない。
優秀な社員が直面する「サッカー効果」
心理学者はこれを「サッカー効果(Sucker Effect)」と呼ぶ。職場において、従業員が相応の報酬を得ないまま自分の取り分以上に貢献し「利用されているのではないか」と不安になる反応だ。HBRの研究者は、同程度の仕事で新規採用者のほうが高い報酬を得ていると気づいたとき、この反応が優秀な社員で強まることを見出した。
その論理は単純だ。優秀な社員が何年にもわたって会社の期待を上回る成果を出してきたにもかかわらず、新規採用者がより高い給与を約束されていたら、優秀な社員は忠誠心や業績、報酬の関係性を見直すことになる。継続的な貢献よりも、外部で得られる交渉力のほうが重要に見えてしまうのである。
優秀な社員は自らの貢献に誇りを持ち、報酬にはその価値が反映されると期待している。それが実現しないとき、彼らは単に低賃金だと感じるのではない。自分が過小評価されていると感じるのだ。



