企業にとって、そのコストはすぐに膨らむ。優秀な社員1人の補充ですら十分に高くつくのに、その損失がより広い範囲の意欲低下や追加の退職につながれば、企業は離職によって発生するコストの増加、組織知の喪失、チームの混乱に直面する事態に陥り、そこからの立て直しには何年もかかり得る。米医療大手のプロビデンス(Providence)はデータに基づく賃上げに取り組み、600万ドル(約9億5400万円)の離職コストを削減できる可能性を明らかにした。この事例は、従業員の定着に測定可能な財務価値があることを示している。
優秀な社員の引き留めには、権限を持つマネージャーが必要
マネージャーは、退職リスクが最も高い従業員に近い場所にいることが多いが、彼らはしばしば、行動するための情報や権限を持たない。優秀な社員が不満を抱え、意欲を失い、リクルーターからの連絡に応じている兆候は見えるのに、その従業員の報酬が同様の職務の新規採用者と比べてどうなのかは把握できないケースがあるのだ。
このギャップは難しい状況を生む。マネージャーには優秀な社員の引き留めが求められる一方で、多くの場合、報酬決定の見通しは限られ、賃金調整のスピードに対する影響力も小さい。優秀な社員が問題を直接持ち出すころには、すでに退職寸前である可能性もある。
賃金の下限/上限や社内の公平性、エスカレーションの手順についてマネージャーにより明確な指針を与えることで、企業はこのリスクを軽減できる。不均衡がどこにあり、どうすれば迅速に対処できるかをマネージャーが理解していれば、苛立ちが退職に変わる前に優秀な社員を引き留めやすくなる。
優秀な社員の退職を防ぐには
定期的な賃金監査、より機動的な報酬システム、不公平が生じた際の迅速な対応は、苛立ちが退職に変わる前に優秀な社員を引き留める一助となる。
対応の緊急性は高まる一方だ。給与の透明性に関する法律は拡大し、給与を比較・測定する手段は高度化し、従業員は社内の不公平をこれまで以上に認識している。年次評価まで賃金格差の是正を待つ企業は、より迅速に動く競合に優秀な社員を奪われるリスクを負う。
結局のところ優秀な社員が辞めるのは、仕事が嫌いになったからでも、報酬が低すぎると思い込んでいるからでもない。企業に対する自分の貢献と受け取る見返りの隔たりが無視できないほど明らかになったからである。HBRの研究者が述べるとおり、「私たちの研究は、離職を避け、とりわけ優秀な社員の流出を防ぐには、賃金の見直しを迅速に行う必要があることを示している」のである。


