「営業が会社の中心なのだから、広告もリサーチも営業に従うべきだと考える経営者が多いんです。ただ、営業は目先の売り上げを立てることに目が行きがち。一方でマーケティングは中長期的な市場戦略を達成することが求められる。企業全体の効率化を進めるためにはマーケティングを全社的な機能として活用することが必要なのです。デジタルツールやAIの台頭によって、人間関係をベースにした営業は大きな曲がり角に来ています。今こそマーケティング中心の組織に転換すべきではないでしょうか」(田中)
実際に、国内外のさまざまな研究でCMOは企業価値を高めることがわかっている。田中が国内の上場企業2800社(企業業績データの欠損値を除く)を対象に行った調査(19年)でも、売り上げ高、営業利益、経常利益、売り上げ増加率のいずれの視標を見ても、CMO設置企業のほうが未設置企業よりも高いパフォーマンスを示した。また、CMOの設置による業績への影響について、重回帰分析を用いて売り上げ規模の影響を一定に保ったうえで比較した結果、4.7%の増収効果をもっていることが明らかになった。田中は、この傾向は26年時点でも大きく変わっていないと見ている。
田中によると、CMOをはじめとするマーケティング責任者を置くことによるメリットは、企業価値の向上以外にもふたつある。ひとつは、社内資源の集中化。CMOが権限をもって社内資源の方向づけをすることで、社内の各部署間で発生するコンフリクトを避けて自社のマーケティングリソースを統合できるのだ。もうひとつは、全社的なマーケティングケイパビリティ(能力)の向上。マーケットインテリジェンスをもったCMOが、「勝てる」フレームワークやスキルを共有・効率化し、組織文化を醸成することで、社内のマーケティングエクセレンスを開発することができる。
後者の事例として有名なのが作業服大手のワークマン。12年から全社員がExcelを用いたデータ分析のスキルを身につけられるように研修を実施。
現場でもデータ分析を行う「データ経営」を実践した結果、10年で売り上げは2.6倍となり業績過去最高を達成した。
「マーケティングは、ある意味凡人のためのもの。アップルには天才と呼ばれたスティーブ・ジョブズがいましたが、どこの会社にも彼がいれば苦労しないかもしれない。でもほとんどの人材は凡人ですよね。凡人でもフレームワークやデータを活用することで、天才の直感を再現可能なプロセスに落とし込めるのがマーケティングのいいところです」(田中)


