「楽しいからやり続ける」
時代の潮流をとらえてきた宇野が今、特に注目しているのはフィジカルAIだ。U-NEXT HOLDINGSが大阪有線放送社の時代から築いてきた全国の飲食店、小売店などのネットワークは86万店に及ぶ。意外に思うかもしれないが、同社はこれらの店舗に音楽配信サービスや通信インフラだけではなく、POSレジや配膳ロボットなどのソリューションを提供している。「例えば、人型ロボットが飲食店や小売店のスタッフとして人間と変わらない業務をこなす。フィジカルAIがあらゆるサービスに取り入れられる、そんな時代の入り口に私たちは立っていると思います」。
アイデアの源泉には、ある種の使命感がある。「社会課題というと大げさですが、生活の利便性を高めるなど世の中が求めることは何なのかを考え続け、やり続ける。企業を大きく成長させたり、ビリオネアになったりするような人は、ひとつの成功で『もういいや』とならないでしょうね」。
今ではこうしたビジネスアイデアの発想に、ノートは必要ない。「ものになりそうなアイデアはだいたいピンとくるし、覚えている。すぐに忘れてしまうようなものは、大したことがないと経験的に知っているのです」。宇野が新しいビジネスを展開するうえで最も重視しているのは対話だ。「これは」と思うアイデアがひらめいたときや、社員からの提案が目に留まったときは、すぐさま担当者と打ち合わせの時間を設けて議論したり、会議中でもその場でフィードバックを与えたりして、検証を実行に移す。
そして、その目は、「会社」という組織そのものにも向けられている。「私は自分自身が立派な経営者である必要はなくて、チームで経営者になればいいと思っているんです。社長がいて、役員がいて、部長がいてという、何百年も変わらないかたちを壊すような『進化した会社』が、そろそろ生まれてきてもいいんじゃないかな」。
学生時代の志を貫いて起業家となり、紆余曲折の末、大きな成功をつかんだ宇野。40年を経た今も、起業家であり続けている理由について尋ねると、笑みを浮かべながら、次のような言葉を返してきた。「やり続けるっていうことは、楽しいからじゃないですかね」。そして、こう付け加えた。「仕事がお金をもうけるための手段だったら、もうとっくにやめています。A5ランクの肉をひとりで食べていても全然おいしくない。会社の仲間と目標を達成したあとの缶ビールとバーベキューのほうがよっぽどおいしくて幸せなんです。自分だけが幸せになれればいいという発想の人は、起業家としては突き抜けられない」。
不屈の起業家の頭のなかでは、次の時代を切り開くアイデアが今もなお湧き出している。

宇野康秀◎1963年、大阪府生まれ。明治学院大学法学部卒業後、88年リクルートコスモス入社、89年インテリジェンス(現パーソルキャリア)創業。98年に父・元忠から承継した大阪有線放送社(後のUSEN)社長、2010年にU-NEXT社長に就任し、17年12月から現職。


