経営・戦略

2026.05.19 13:12

AIで現場従業員を強化せよ:小売業が気づいていないコスト削減の切り札

stock.adobe.com

stock.adobe.com

マーク・ラストンはキャップジェミニ・グループのグローバル・リテール・リードであり、『The AI-powered store associate』の著者である。

advertisement

小売業はあらゆる方向から圧力を受けている。根強いインフレと消費者の優先順位の変化が支出を抑制する一方で、フルフィルメントの迅速化、パーソナライゼーション、エージェンティック・コマース(自律型AIによる商取引)をめぐる要求は高まり続けている。同時に、AIに慎重な労働力と、テクノロジーに対する懸念の増大が導入を停滞させ、場合によっては反発さえ生んでいる。

こうした課題を乗り越えるために小売企業が必要としているのは計画の縮小ではなく、むしろその価値をより明確に伝えることだ。AIは、個々のニーズや嗜好に合致する新しい顧客体験を解き放つ。AI搭載のサービスエージェントやショッピング・アシスタントは、カスタマージャーニーを効率化し、時間を節約しながら満足度とロイヤルティを高められる。

世界有数の小売企業のいくつかと協働し、体験を高め、コストを削減し、成長を促すための新たで斬新な方法を見いだしてきた経験から、最もインパクトが大きいにもかかわらず十分に活用されていないAIのユースケースの1つは、インテリジェントなツールによって現場従業員の生産性とパフォーマンスを高めることだと認識している。

advertisement

AIが現場従業員のパフォーマンスを高める3つの方法

小売企業は厳しい雇用環境に直面している。iCIMSの調査によれば、現場の採用担当マネジャーの10人中9人(91%)が、役割を埋める「圧倒的で差し迫った必要性」があると回答し、62%が応募者の質を最大の課題として挙げている。これらの問題は高い離職率によってさらに悪化しており、離職率は小売業で60%を超え、クイックサービスレストラン(QSR)ではそれをはるかに上回る場合も多い。

効率性の追求と卓越した体験提供の必要性が重なり合うなか、もはや「より優秀な人材をどう見つけるか」だけを問うことはできない。「すべての従業員が最高のパフォーマンスを発揮できるようにするにはどうすればよいか」が問われている。以下に、私が小売の現場でAIがフロントライン体験を高めるのを見てきた重要な3つの方法を紹介する。

1. AIは、店舗スタッフが必要な情報にアクセスする方法を簡素化できる

当社の最新の消費者トレンドレポートによれば、買い物客の4人に3人がスタッフによる支援を求めているが、満足度は従業員がどれだけ十分な対応力を備えているかにかかっている。

課題は、多くの店内ツールが使いにくく、分断されているため、現場従業員が必要な情報を見つけにくいことだ。例えば、顧客対応をする店舗スタッフは、在庫の確認、別店舗での商品の所在確認、プロモーションの確認のために複数のシステムを行き来する必要があり、しばしば同時に他の複数タスクも抱えている。

解決策は単にツールを1つ増やすことではない。AIを用いて、既存のツール群を共通のインテリジェンス層とリアルタイムの対話型インターフェースでつなぐことだ。実際には、この2つの要素があることで、従業員は音声対応ヘッドセットを通じて自然言語で質問でき、AIエージェントが在庫、注文管理、その他の店内システムから情報を引き出し、単一で正確かつ文脈化された回答を提示できる。

既存ツールセットの統合は、現場投資を検討する上で最重要の要素の1つだが、すべてのAIソリューションが実現できるわけではない。新システムが断片化を助長するのではなく従業員体験を高めることを確実にするために、小売企業は強力な統合機能、リアルタイムのデータアクセス、すぐに展開できるAIエージェント、単一インターフェースで複数システムをオーケストレーションできる能力を備えたプラットフォームを求めるべきである。

2. AIは摩擦を取り除き、スタッフが顧客に集中できるようにする

多くの小売企業は、スタッフに顧客対応へ集中してほしいと考えている。しかしスタッフは、ヘルプデスクのチケット登録、シフト変更の申請、適切な手順の検索といった非顧客対応の活動に、すぐ気を取られてしまう。

エージェンティックAIは、こうした非顧客対応タスクの効率化において役割を果たし得る。高度化の水準に応じて、AIエージェントは従業員の質問に即答する支援から、従業員に代わって実際にアクションを実行するところまで、あらゆるレベルの支援を提供できる。

例えば、勤怠カードの問題を報告するためにヘルプデスクのポータルへログインすることをスタッフに求める代わりに、インテリジェントなモバイル・チャットツールを通じてAIエージェントにその作業を指示できる。より高度な適用では、AIアシスタントがPOS(販売時点情報管理)プリンターのエラー原因を切り分け、解決手順を提示することも可能だ。

管理業務に費やす時間を減らす、あるいはそれ自体をなくすことで、従業員は本当に重要なこと、すなわち顧客を支援することにより多くの時間を使える。

3. AIは混乱を先回りし、ダウンタイムを最小化できる

小売業では、システムの停止は売上損失を意味し得る。AI技術が大きなインパクトを生み得る別の領域は、プロアクティブ(予防的)メンテナンスである。

AIは2つの方法で役立つ。1つ目は、サービスが必要となる時期を予測し、ダウンタイムを引き起こしたり店舗運営を妨げたりする前に潜在的な問題を特定すること。2つ目は、解決プロセスをステップ・バイ・ステップで従業員にガイドし、専門のサポートチームへエスカレーションせずにトラブルシューティングできるよう支援することだ。

例えば、デジタルサイネージのシステム更新に失敗した場合、AIエージェントは棚の表示が消える前にフロアマネジャーへ警告できる。AIシステムは原因を診断し、従業員に更新プロセスを案内して、ITサポートを必要とせずに復旧させることもできる。

現場従業員向けAIツールの導入を促し、利用を拡大する方法

シンプルに保つ

ツールが使いやすければ、導入は自然と進む。そして最終的にユーザーと企業の価値を生むのは、この導入である。まずは、基本情報と簡単なタスクを店舗フロアの従業員へ直接届ける、焦点を絞ったMVP(実用最小限の製品)から始めよう。導入と測定可能な価値が確立されたら、ソリューションを拡張できる。

音声を優先する

小売企業がスタッフに対面での顧客対応へより多くの時間を割いてほしいなら、AIツールは音声で操作できる必要がある。音声ファーストのシステムなら、従業員はハンズフリーのヘッドセットを通じて即座に情報へアクセスできる。併用するモバイルアプリは、(頻度は低い)より複雑なタスクに対して、より深い機能を提供できる。

足すな。統合せよ

ポイントソリューションは有効な場合もあるが、特に新規採用者にとっては従業員体験の複雑さを増幅しがちだ。小売企業は、分断された店内ツールを単一で一体的なプラットフォームへ統合し、現場チームの日々のワークフローを簡素化することに注力すべきである。

AIで店内優位性を解き放つ

卓越した現場パフォーマンスは、採用した従業員ではなく、小売企業が設計する従業員体験から生まれる。AIによって労働力全体の前提条件を平準化すれば、組織全体のパフォーマンスと生産性が高まり、権限を与えられた従業員を通じて卓越した顧客体験を実現し、事業全体のオペレーションコストを削減できる。

forbes.com 原文

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事