特にセザンは、事前の仕込みを最低限に、その場で作る出来立て感を重視する。主食材、ソース、付け合わせなどを別のスタッフがつくり、それぞれの温度や食感、香りなどがピークを迎えるタイミングで盛り付けて提供する。一つリズムが崩れると、完璧な状態で料理をゲストに届けることができない。スタッフは自立したプロとして、自らの頭で考え、実行することが求められる。
緊張感のある現場だが、そこにあるのは厳しさだけではない。前出の杉田は「ダニエルシェフには、兄のように個人的なことも相談できる雰囲気があった」と振り返る。カルバートも、「厳しさだけでは働き続けられません。誰よりも長く時間を過ごすチームは家族の一員。始業前と終業後は、一人一人に必ず挨拶をして気にかけます。彼らのロールモデルでもある自分の振る舞いにも気をつけます」と話す。
「チームメンバーは仲がいい。今も休日の毎週月曜は皆で集まって食事をしたりしているようです。確実なのは、チームが幸せだと、料理はもっと美味しくなるということです」
常に学び、高めあう
スタッフの家族や他のレストラン関係者が店を訪れれば、シャンパンなどを振る舞ってもてなす。ここで最高の体験をできれば、彼らは仕事に誇りや希望をもつことができ、「それがファインダイニング文化の未来につながっていく」と信じている。
次世代の育成にも力を注ぐなかで、近年、レストランの華やかな側面ばかりが強調されることには懸念も感じている。「ゲストや食材は毎日変わりますが、仕事自体は地道な手仕事の繰り返しです」。カルバート自身、そんな職人的な手仕事を愛する一人だ。以前店を訪れた際には、繊細な8層のレイヤーが重なる「トマトタルト」のために、スタッフと楽しそうにひたすらミニトマトの皮をむいていた。
近年増えているレストラン同士のコラボレーションに関して、セザンは多くのオファーを受けながらも、その数をごく絞り込んできた。判断基準は、共に料理をすることを通して、学び合うことができるかどうかだ。
例えば、セザンには、あん肝を一口大のタルト生地に入れ、細かく砕いた中国醤油と黒酢のゼリーをかけたメニューがあるが、そのあん肝の下処理は、日本料理「山﨑」との競演を機に習得した。
「コラボレーションはPRやマーケティングにも寄与しますが、本来の目的はそれではない。それに、セザンにおいては多くのトップシェフが食事に訪れ、口コミで店を広めてくれたのが何よりのプロモーションになりました」と笑顔で語る。


