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2026.05.23 17:00

創業者がメタに移籍し「終わった」と評されたScale AI、新CEOのもとで売上回復

Scale AIの新CEOのジェイソン・ドローグ(Photo by Tasos Katopodis/Getty Images for Semafor World Economy)

Scale AIの新CEOのジェイソン・ドローグ(Photo by Tasos Katopodis/Getty Images for Semafor World Economy)

アレキサンダー・ワンが今から約1年前、自ら創業したデータラベリング企業Scale AI(スケールAI)を去ったとき、多くの人は、この企業はもはや終わったも同然だと考えた。実際には、Scale AIは新CEOのジェイソン・ドローグの下で売上が回復したと説明しており、2026年の売上高は10億ドル(約1590億円。1ドル=159円換算)を超える見通しだ。ドローグは以前Scale AIの最高戦略責任者を務めており、さらにその前はウーバーと、スタンガンを製造するAxonで幹部を務めていた。

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メタが49%を取得し、創業者ワンは会社を去った

2025年6月、アレキサンダー・ワンがサンフランシスコにあるScale AI本社の階段を下り、吹き抜けのスペースに姿を見せたとき、社員は、彼がまだCEOとして残っているのか、分からずにいた。データラベリング大手のScale AIは、その前日、業界を揺るがす取引を発表していた。その内容は、メタ(Meta)がScale AIの49%を140億ドル(約2.23兆円)で取得するというものだった。同時に、創業者兼CEOのワンはScale AIを離れ、マーク・ザッカーバーグが新設したスーパーインテリジェンス研究所を率いることになる。社内に混乱が広がる中、社員の多くは、ワンがすでに会社を去ったものだと思っていた。

そのため、社員は全社会議の壇上に現れたワンの姿に驚きつつも拍手を送った。「本当に涙が出た。別の状況であれば、Scale AIで働き続けることを心から楽しみにしていたと思う」とワンは、フォーブスに語る。

ワンはこのミーティングで社員に何を話したのか、はっきりとは覚えていない。ただ、出席者の1人によると、ワンはまず、マサチューセッツ工科大学(MIT)の1年生だったころにScale AIを立ち上げ始めた経緯を語り、その後、涙を流し始めたという。「こんなの本当にばかげている。なぜ自分はこんなことをしているんだろう」とワンは話していたと、その人物は振り返る。

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ワンのこの言葉は、自分が涙を流していることを指したものだった。ただ、その「なぜ」という疑問は、Scale AIをとりまく状況全体にも当てはまるように見えた。数日前に情報がリークされたこの予想外の取引を受けて、シリコンバレー全体も同じ疑問を抱いていた。ワンはなぜ、当時138億ドル(約2.19兆円)の評価額に達していた成長中の自社を手放したのか。しかも移籍先のメタは、人工知能(AI)分野でグーグル、OpenAI、Anthropicを追う立場にあった。

メタとの提携がヒューマンデータ事業の足元を揺るがす

Scale AIは、最先端AIモデルの学習に使われるヒューマンデータ(人間のデータ)の市場で圧倒的な存在感を示してきた。同社の事業では、膨大な数のクリックワーカーと、博士号保有者・弁護士・エンジニアといった専門家が、グーグルのGeminiやOpenAIのChatGPTといったモデル向けのデータを作成している。Scale AIは2020年に大規模言語モデル(LLM)を米国防総省に初めて導入して以来、同省にとって有力な取引先にもなっていた。この事業は一時、ワンを世界最年少の自力で財を築いたビリオネアの地位に押し上げた。

そんなScale AIにとって、メタとの提携は、AI分野で最も価値の高い企業群にインフラを提供する堅実な事業の足元を揺るがしかねないものだった。関係者の間では、最先端AIモデルを開発する研究所が、メタにほぼ半分を所有される企業に自社のデータを預けたいと思うはずがない、との見方が広がっていた。

しかし、Scale AIの社員約10人を引き連れてメタに移ったワンは現在、この取引が両社にとって「信じられないほど大きな機会」だったと語っている。

新CEOのドローグ、事業の重点をアプリ開発に移す

全社ミーティングの後半でワンは、自身の後任のジェイソン・ドローグを正式に紹介した。この会議は、前週に大きな混乱があったにもかかわらず、30分で手短に終わり、社員からの質疑応答もなかった。ワンとドローグは、その場のやり取りを簡潔に済ませた。

「我々は握手をして、ハグをし、お互いの将来を楽しみにしていると話した。そして次の瞬間には、もう実行に移さなければならなかった」と、ドローグは振り返る(彼の肩書はいまも「暫定CEO」のままではあるが、社内では長期的にScale AIを率いる人物だと見られている)。

メタとの取引の発表から1年近くが過ぎ、2016年の創業から10年を迎える今、Scale AIが以前とは大きく変貌しているのも不思議ではない。ドローグがCEOとして最初に取り組んだのは、同社の投資先をデータラベリング事業から、大企業や公共部門の顧客向けにAIアプリケーション開発を支援する事業へと移すことだった。

具体的には、EY、パラマウント、シスコのような大企業や、米軍のような公共部門の顧客が自社向けのAIアプリケーションを開発できるよう支援するビジネスモデルへの転換を進めた。

メタの支援で、2025年の売上高は約1590億円弱に

この戦略は成果を上げているようだ。Scale AIはフォーブスに対し、2025年の売上高が、その前年の8億7000万ドル(約1383.3億円)から10億ドル(約1590億円)弱に伸びたと説明している。同社の創業以来の累計売上高は25億ドル(約3975億円)に上る。

売上増加の一部には、新たな株主であるメタの大きな支援が寄与している可能性がある。フォーブスが当時報じたところによると、メタは取引の一環として、Scale AIのサービスに対し、年間少なくとも4億5000万ドル(約715.5億円)を5年間支払うことで合意していた。ただし、メタの年間AI支出の半分を超える場合は、その半額が上限となる。ワンとドローグはコメントを控えたが、この金額はScale AIの年間売上高のほぼ半分に相当する。

ドローグは、データ事業とアプリケーション事業の売上比率の詳細を明かさなかったが、アプリケーション事業の売上高は今後18カ月以内にデータ事業を上回ると見込んでいる。現在メタにいるワンの方は、自らが共同創業したScale AIを今も応援している。「Scale AIはもう終わった、行き詰まったというような見方があるが、それはまったく事実ではない」とワンは語り、同社の底力は「そうした見方を大きく覆すものだ」と表現した。

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翻訳=上田裕資

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