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2026.05.23 17:00

創業者がメタに移籍し「終わった」と評されたScale AI、新CEOのもとで売上回復

Scale AIの新CEOのジェイソン・ドローグ(Photo by Tasos Katopodis/Getty Images for Semafor World Economy)

メタとの取引で生じた顧客の懸念を和らげるために奔走

Scale AIは、メタとの取引が最先端AIモデルを開発する研究所との関係を複雑にすることを、契約を結ぶ前から認識していた。「混乱が起きることは間違いなく予想していた。疑いの余地はない。当社の創業者は実際、別の研究所を支援するために移ったわけだからだ」とドローグは語る。「現在は、顧客の大半が戻ってきたが、すべてではない」と彼は付け加えた。

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ドローグは、Scale AIがメタに取り込まれたのではないかという懸念を和らげるため、顧客を安心させようと奔走した。一部顧客は、Scale AIのオフィスを訪れ、経営陣や研究者と直接会うことを求めた。ドローグは顧客に対し、メタは取締役会の議席を得ないこと、ワンは取締役として残るものの取締役が顧客との取り組み内容を知ることはないことを説明した。ドローグは現在、「私はScale AIの株主だ。私のインセンティブは、メタ以外の顧客にできる限り満足してもらうことにある。私はメタの社員ではない」と語る。

取引関係に詳しい2人の関係者によると、Scale AIにとって最も大きな痛手となったのは、OpenAIとの取引を失ったことだった。これは、単に同社が業界屈指の有力企業だったからだけではない。Scale AIは、ChatGPTの公開で世界的なAIブームが始まる2022年より前から、GPT-3の訓練に関わっていた。OpenAIは、Scale AIに生成AI分野への足がかりを最初に与えたフロンティアAI研究所だったのだ。グーグルの対応は、OpenAIとは異なった。メタの発表後、当初はデータラベリングの委託先からScale AIを外したが、数カ月後に取引を再開している。

ただし、メタだけはScale AIにとって、失う心配のない顧客だった。Scale AIは、ワンの指揮下で初めて開発されたメタのAIモデル「Muse Spark」の訓練で、重要な役割を果たしていた。先月公開されたMuse Sparkは、評価こそ分かれているものの、好意的な反応も多く、AIモデル競争におけるメタの本格的な巻き返しと受け止められている。

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「この新モデルには、かなりの思い入れがある。Muse Sparkの訓練では、Scale AIが極めて重要な役割を果たした。その成功は、多くのパートナーの優れた仕事に支えられたものだ。その中でScale AIも間違いなく大きな役割を果たした」とワンは語る。ワンはそれ以上、メタでの自身の仕事について語ることは控えた。

メタとの取引後、データラベリング事業とアプリ開発の比重を逆転

Scale AIはメタとの取引後、自社の事業構造を大きく転換しようとしてきた。ドローグによると、提携前のScale AIは、事業の重点の70%をデータラベリングに、30%を企業や政府向けのアプリケーション開発に置いていた。現在はその比重を逆転させており、アプリケーション事業の年換算売上高は2025年末時点で2億ドル(約318億円)に達したという。

メイヨー・クリニックやEYなど、事業転換で広がった新たな企業顧客

Scale AIは、メイヨー・クリニック、EY、BP、アリアンツなど、新たな企業顧客も獲得している。たとえばメイヨー・クリニックは、断片化された医療記録を読み取り、解釈するシステムをScale AIと共同で開発した。

EYはScale AIを使って社内向けAIエージェントを構築している。EYの戦略コンサルティング部門で最高技術責任者を務めるトニー・クイによると、その中には、M&A案件の助言をEYに依頼した顧客を対象に、デューデリジェンスを支援するAIエージェントも含まれる。

クイは、EYがScale AIを選んだ理由について、OpenAIから推薦を受けたためだと説明する。この推薦はメタとの取引の数週間前のことで、取引発表後には当初懸念も生じたが、クイはドローグなどScale AIの経営陣と面会した後、同社との取り組みを継続することを決めた。

Scale AIは、企業向けベンダーであると同時にデータラベリング企業でもある自社の立ち位置が、他社にはない強みだと主張している。同社はフロンティアAI研究所と協力してモデルの訓練に関わっているため、AI技術の最前線で何が起きているのかを把握している。そして、それは企業が近い将来に導入したいと考える技術でもある。「その両方を本当の意味で提供できるのはScale AIだけだ」と、Scale AIへのシリーズB投資を主導したCoatueのパートナー、ルーカス・スウィッシャーは語る。

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翻訳=上田裕資

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