エリー・ビクター(Ellie Victor):シリコンバレーを代表するポジショニングエージェンシーZOOM Marketingの共同創業者兼CEO。数百社のクライアントを成功に導いてきた実績を持つ。
先日、3つの都市で36人のCMOと3日間を共にし、ひとつのことが明確になった。AIがマーケティングのより多くを自動化しつつある今、CMOの役割は重要性を失うどころか、むしろ高まっているのだ。
CMOにはここ数年で初めて、マーケティングの責任者としてだけでなく、事業がいかに成長し、競争していくかを牽引する存在として、役割を拡張できる機会が訪れている。
今、新しいタイプのリーダーが台頭しつつある。それが「スーパーCMO」だ。収益を牽引し、戦略を形づくり、顧客主導の組織を構築するリーダーである。
1. スーパーCMOは顧客ジャーニー全体で売上責任を担う
CMOはもはやパイプラインを生み出すだけの存在ではない。購買ジャーニーのより広い範囲にわたり、売上への責任を負う傾向が強まっている。
理由は単純だ。買い手が変わったのである。
買い手は主導権を握りたがっている。自分のペースで調べ、即座に答えを得て、営業と話す前に意思決定を下したい。そうした行動を、ますますAIやLLM(大規模言語モデル)を通じて行っている。
それは実務に直結する影響をもたらす。
かつて営業との会話の中で起きていたことが、いまやより早い段階で、しかも営業抜きで起きることが多い。買い手は担当者と接点を持つ前に、評価を固め、候補ベンダーを絞り込んでいる。
そして、いざ接点を持つ準備ができたとき、彼らは必ずしもあなたのファネルに従いたいとは限らない。
ここで登場するのが、AIによる「スーパーヒューマン」だ。
それはチャットボットの範疇を超える。見込み客の適格性判断、技術的質問への回答、さらには製品デモの提供まで可能な、ブランド化されたエージェントであり、従来は営業が担ってきた業務を処理する。そして、マーケティングが管理するデジタル体験の中に直接組み込まれている。
変化の本質はこうだ。マーケティングは認知を促すだけではない。売上エンジンの一部を運用する存在になりつつある。
そしていま企業は、こうしたインタラクションをエンドツーエンドで測定することに、かつてないほど近づいている。AIシステム、CRM、デジタル体験にまたがる買い手のエンゲージメントを売上成果へ結びつけられるようになりつつあるのだ。買い手がどう関与し、何が次の段階へ進ませ、それが売上にどう転換されるのかを把握できる。これにより、マーケティングの影響がどこから始まりどこで終わるのかという古い議論は不要になる。
ベストプラクティス:買い手主導のジャーニーを前提にGTM(Go-to-Market)を再設計せよ。顧客がどのように調べ、どのように意思決定したいのかを可視化し、あらゆる段階で摩擦を取り除く。
2. スーパーCMOはポジショニングを通じて戦略を動かす
1つ目の変化がジャーニーのより多くを担うことだとすれば、2つ目はそのジャーニーがどこへ向かうのかを形づくることである。つまり、自社が何で知られる存在になるのか、そしてどのように競争するのかを決めることだ。
突き詰めれば、ポジショニングとは「それを何の話にするか」を決めることである。
優れたCMOは、自社が「丘を押さえる」ことを支援する。顧客が実際に価値を置くものに根差した、明確で差別化された1つのポジションであり、社内の意見だけに基づくものではない。その明確さは、外部の視点、すなわち実際の顧客や見込み客を取り込み、何が響き、何が欠け、どこで本当に差別化できるのかを理解することで生まれる。
そうした外部からのインプットは、戦略を研ぎ澄ますと同時に、経営陣の足並みを揃える。市場が何を価値と見なしているかが見えれば、組織を単一の方向へ結集させることは格段に容易になる。
ここでポジショニングが、プロダクトのロードマップと方向性を動かす。何を強調するかの選択が、何をつくり、時間とともにどのように差別化し続けるかを形づくる。
そのポジションは、発見され方も左右する。「それを何の話にするか」が定まれば、それを軸に権威性を築き、買い手が実際に考え、問いを立てる方法に沿ったコンテンツをつくれる。もはやランキングやクアドラントの話ではない。買い手の言語で露出すること、AI駆動の環境も含めてそうすることが重要になる。
ベストプラクティス:ポジショニングを検証せよ。社内で整合しているか、社外で明確に差別化できているか。そうでないなら、実在の顧客と見込み客のインサイトに基づくポジショニング演習を行い、チームを整列させ、自社の「軸」を定義する。
3. スーパーCMOは顧客主導の組織を手中に収める
3つ目の変化は、企業が時間をかけて市場と整合し続ける方法に関わる。顧客中心主義は長らく目標であり続けた。しかし実務では、断片化しており、不完全な情報に基づくことが多かった。
それがAIによって変わりつつある。
いま多くの組織は、効率化のためにAIを適用している。コンテンツをより多く生産し、タスクを自動化し、人員を削減するためだ。短期的には利益率が改善するかもしれないが、顧客体験の悪化、ノイズの増加、関連性の低下、人間的なつながりの希薄化を招くリスクがある。顧客はそれを感じ取る。
チャンスは、AIを「速くする」ためだけではなく、「より深く理解する」ために使うことにある。今回の出張中、あるCMOは半ば冗談めかして「マーケターのヒポクラテスの誓い」を提唱した。顧客に害を与えないこと、だ。
別のCMOは、AIを用いてすべての顧客レビューに対し、パーソナライズされた思慮深い返信を行うことでこれを運用に落とし込んでいた。重要なのは、そうしたやり取りからパターンを特定し、人間のフォローが必要な問題を検知し、実際の顧客フィードバックをプロダクトのロードマップへ直接流し込んでいた点である。これが変化だ。
勝つ企業は、顧客インサイトを企業のアクションへ転換できる企業である。つまり、顧客が何を語っているかと、次に事業が何をするかを結びつけ、ループを閉じることだ。
ベストプラクティス:他社が効率化にいっそう注力する一方で、自社は顧客中心主義にいっそう注力するために何ができるかを考えよ。
この瞬間を逃すな
日々の役割上の要求、依頼、期待、「より少ないリソースでより多くを出せ」という絶え間ないプレッシャーに埋もれてしまうのは容易い。
だが、このような瞬間はそう頻繁には訪れない。
未来を手にするのは、AIのスピードと人間の判断を組み合わせるリーダーである。CMOの役割は、売上、戦略、そして企業が顧客を理解し応答する方法へと広がっている。
この瞬間をつかむリーダーが、事業を形づくる。丘を選び、それを中心に組織を整列させ、基準を引き上げ続ける。
そしてその結果、彼らはマーケティングを動かすだけではない。自社がいかに成長し、勝つかの設計者となる。



