経営・戦略

2026.05.17 23:31

スピードを生む「5つの非常識」 AI企業が実践する組織デザインの新常識

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昨秋、2社がJumpの私のチームと面会した。いずれも数十億ドル規模の大企業であり、抱えている課題もよく似ていた。AIはもはや距離を置いて研究するだけの対象ではなくなっていた。仕事が実際にどう進むかを変え始めており、両社の現在の戦略は薄っぺらく感じられ始めていた。

1社目は金融サービス企業だった。初期の会話のひとつで、最高イノベーション責任者が話の途中でふと立ち止まり、ほとんど独り言のように「これはきちんとやらなければならない」と言った。ためらいというより、責任感だった。その後1カ月にわたり、私たちは質の高い議論を重ねた。問いは鋭く、意図も真剣だった。休暇シーズンが近づくと、彼らは1月に再びつながろうと提案した。ところがその後、大企業で働いたことのある人にはおなじみの追伸が届いた。組織構造の変更を検討する間、プロジェクトを一時停止する必要があるというのだ。

この展開自体は何ら珍しくない。だからこそ重要である。これは、内部から見た「うまく運営されている企業」の姿だ。課題を探り、人々を巻き込み、何かを始める前に適切なステークホルダーが関与していることを確かめる。すべてが整う瞬間を待つ。各ステップは個別に見れば理にかなっている。だがそれらが積み重なると、進行中には気づきにくい形で、物事のスピードを鈍らせていく。

2社目はテック大手だった。しかし、その規模にもかかわらず、彼らはまったく異なるテンポで動いていた。月曜にチーフ・オブ・スタッフがメールを送ってきた。火曜に話をした。木曜には、アプローチの共有プランができあがっていた。翌週の月曜までに両社は契約に合意し、その水曜には経営陣とともに仕事をキックオフした。

金融サービス企業と再び連絡を取ったときには、テック企業向けの戦略はすでに完成しており、彼らは実行フェーズに入っていた。

多くの人は、この話を聞いて単純な結論にたどり着く。「テクノロジー企業はただ速い」というものだ。この説明は魅力的である。問題を安全な距離に置けるからだ。スピードが業界の産物なら、こちらにできることはあまりない。しかし舞台裏では、2社とのやり取りが、どの企業にも実現可能な何かを明らかにしていた。そして、今はなおさら重要な何かを。テック企業は単に文化的に短気だったわけではない。仕事の進め方そのものに、別の仕組みをつくっていたのだ。

異なるオペレーティングシステム

長年にわたり、大企業は単純な順序に従ってきた。まず合意形成をし、それから行動する。意見を集め、根拠を組み立て、何かを始める前に適切な人々が賛同していることを確認する。人間同士の調整にコストがかかり、失敗もしやすかった、より遅い世界では理にかなったモデルである。フォーチュン500企業の運営の多くは、その事実への対応として成立している。そしてそれは機能した。何十年もの間、それが「大きなものをつくる」方法だった。

AIが生み出しつつある世界では、その順序が反転し始めている。いまや適切なツールを持つ小さなチームが、かつて30人の委員会が1四半期かけていたことを、1週間でやってのける。突然、組織図そのものがオーバーヘッドに見え始める。

これこそ、語られていないAIのもう半分の物語である。OpenAIやAnthropicのような企業は、単に技術をつくっているのではない。彼らは、異なる働き方を切り開いている。彼らの企業には、別のオペレーティングシステムがある。

この1年でもっとも重要なプロダクトリリースのひとつが、AnthropicのClaude Codeだった。これは、プロンプトに応答するツールから、自ら行動し、反復し、自律的に改善できるシステムへの転換を示した。この違いは、ソフトウェアを「使う」ことと、仕事をソフトウェアに「委任する」ことの境界を曖昧にし始める。また、Anthropicがいかにプロダクトを開発するかを示す、魅力的なケーススタディでもある。

Claude Codeは、完成された計画を伴う正式な取り組みとして始まったのではない。始まりは、エンジニアのボリス・チェルニーが、探究に値する問いに取り組んだことだった。モデルがコードについて話すだけでなく、それ以上のことができたら何が起きるのか。ファイルを読み、コードベースを理解し、変更を加え、コマンドを実行し、反復を続けられたらどうなるのか。チェルニーは、そのアイデアについて長い合意形成プロセスに入らなかった。市場を完全に定義しようともしていない。最初のバージョンはシンプルで暫定的だった。試すのに十分役立つこと、それだけでよかった。

Anthropicの社内で、人々は仕事の過程でそれを使い始めた。5日目には、エンジニアリングチームの半分が使っていた。やがて利用はエンジニアをはるかに超えて広がった。営業チームは、商談を成立させる支援に使い始めた。正式な展開計画はなかった。ツールは役に立ったから広がったのだ。人々はそれに戻り、使い込み、仕事を進めるために頼ることで、その強みと限界を見いだしていった。

Claude Codeの市場投入までの道筋は、偶然の産物ではない。それはAnthropic内部で仕事がどう構造化されているかを反映している。開発者には高い自律性が与えられ、オープンにアイデアを探求することが奨励される。完全な合意形成や完成した計画を待たない。代わりに、小さくつくり、使ってみて、何が手応えを得るかを見る。チームは自らの「社内」プロダクト・マーケット・フィットを見つけるよう促される。つまり、新しいアイデアが社内の他者にとって有用であることを証明するのだ。

現在、多くの企業がAIの導入を試みている。しかしAIツールをつくる企業は、仕事が起きる方法そのものも再形成している。彼らの運営の仕方は、技術そのものと同じくらい重要になり始めている。

外から見ると、こうした振る舞いの多くは常識外れに見える。大半の組織が価値あるものとして教え込まれてきたこと――慎重な合意形成、幅広い包摂、厳格なコスト管理、早期の効率化――に逆行するからだ。しかしそれは、彼らがスピードのために設計された別のオペレーティングシステムの一部であることの兆候でもある。これは、いくつかの特異なテック企業の癖にすぎないのではない。AIがあらゆるタイムラインを圧縮するにつれて、未来志向の企業ならどこも必要とする習慣である。試す価値のある5つの常識外れな転換を挙げよう。

大金を使え

多くの大企業では、何に支出するのか確信が持てるまで、人々はお金を使わない。チームは機会を定義し、ステークホルダーの合意を取り、正当性を組み立ててから、意味のあるリソースが投じられることを期待される。これは合理的な順序であり、無駄から組織を守る。

変化が急速な環境では、その順序が変わり始める。すべてが明確に理解される前に、より早い段階で投資するようになる。目的は、その機会が実際には何であるかをより深く学ぶ助けになる何かをつくることだ。確信がない段階で先に採用する、複数の実験を同時に走らせる、重要な問いが開いたままでもリソースをコミットする、といったことを意味し得る。

私は最近、ある太陽光テック企業のCEOと話をした。彼はキャリアのスタートをスペースXのインターンとして切ったという。ほかのR&Dインターンと同様に、スペースXは彼に25万ドルの予算を与え、何か試してみるように言った。25万ドルだ。インターン1人あたり、である。

外部の人には、これは行き過ぎに見えるかもしれない。だがこのシステムの内側では、異なる形で展開する。変化の速度が増すと、静かに待つコストがより可視化される。時間は希少資源のように振る舞い始め、支出は学習曲線を前進させる手段になる。AI企業はスペースXのやり方に倣ってきた。

全員を巻き込むな

大企業では、会話が「全員が含まれている」と感じられるよう設計されがちだ。意見は広く集められ、ステークホルダーは早期に特定され、仕事が始まる前に合意が築かれる。これは賛同を生む一方で、摩擦ももたらす。

小さなチームは別のテンポで動く。関与する人数が少ないほど、意思決定は速くなり、オーナーシップも明確になる。広い層に説明しなければならない前に、仕事を始められる。調整すべきポイントが少ないため、勢いが増す。

だからこそ、アマゾンCEOのジェフ・ベゾスには「ピザ2枚ルール」があった。チーム会議は、2枚のピザで全員が満腹にならないほど大きくしてはいけない、というものだ。6人や8人のチームなら、合意形成の層を待たずに素早く意思決定できる。パンデミック後、多くの企業がMicrosoft Teamsで30人の通話に頼るようになった。そこでは各人が切手サイズで表示され、貢献度はさらに低い。AI企業はそんなことはしない。

効率化するな

多くの企業は、重複の排除を叩き込まれている。共有サービスや中央集権型プラットフォームは、仕事を一度だけ行い、広く再利用するために設計される。時間の経過とともに、これは一貫性とスケールを生む。

グーグルはNotebookLM、AI Overviews、Gemini、そしてProject Astraを、意図的に重なり合う権限範囲を持つ並行の取り組みとして走らせた。Anthropicでは、個々のエンジニアリングチームが、中央プラットフォーム部門にリクエストを回すのではなく、自分たちの社内ツールをつくる。つまり同じユーティリティの複数バージョンが、同時期に社内に存在することが多い。ほかの人には無駄に見える。Anthropicにはスピードと学習に見える。

チームが独立して動くと、異なるアプローチが並行して探究される。共有ソリューションを待ったり、中央の部門が自分たちのニーズを優先してくれるのを待ったりする必要がない。自分たちのタイムラインで動き、試し、学べる。

上司に聞くな

大企業では、意思決定を上層部から得るまでに何週間も過ぎてしまうことがある。チームは準備し、合意を取り、行動の前に承認を求める。これは監督を担保するが、意思決定と実行の間の距離を広げ、上司の上司から返事が来るのを待つ間にすべてが遅くなる。

最先端AIモデルをつくる企業は、上に委ねることに過度の摩擦があると理解している。エヌビディアCEOのジェンスン・フアンには数十人の直属部下がいるが、1対1のミーティングを一切行わない。戦略アップデートは、全員に同時に送られる。この体制は、彼が個人的に対応できることを中心に設計されているのではない。社内の誰もが仕事をする前に、彼の時間の順番待ちをしなくて済むよう構築されているのだ。ケロッグ経営大学院のビクトリア・メドベック教授は、組織の俊敏性は、エスカレーションに必要な階層の数に反比例すると長らく指摘してきた。フアンは階層をほぼ消し去る構造を築いた。

もちろん、その場合リーダーは、チームが迷走したり暴走したりしないよう、意図的な文化をつくり、焦点の定まった課題(と支出)を設定することに長けていなければならない。

Zoomから離れろ

そして、ここが最も難しい部分である。COVID以降、多くの大企業はリモートワークへ移行した。リーダーシップチームは世界中に散らばっている。理屈としては、トップ人材を惹きつけるにはそれが必要だ、ということになる。

それでもAnthropic、アマゾン、OpenAI、マイクロソフト、グーグルは、対面勤務へと明確に回帰した。仕事がまだ形になり切っていない段階では、近さが物事の進む速さを変えると学んだからだ。1週間にわたる予定調整された通話にまたがる会話が、午後のうちに片づく。すれ違いざまに質問が解決する。人々は他者が何に取り組んでいるかを目にし、リアルタイムで調整する。スピードは、共にいることから生まれる。世界的な影響力を持ちながらも、Anthropicのチームはサンフランシスコ中心部のある交差点周辺に集まったいくつかのビルに集中している。

これは容易な転換ではない。オフィスに戻りたくない人もいる。戻れない人もいる。途中で人材を失う可能性も高い。しかしトレードオフは現実だ。最前線、つまり仕事がまだ形成されつつある場所では、スピードが優位性を生む。そして、可能性を見極めるのに十分速く動けなければ、単に遅れを取るだけではない。機会そのものを逃す。

時計は加速している

ウォール・ストリート・ジャーナル・リーダーシップ・インスティテュートによる最近のCEOブリーフで、GustoのCEOジョシュ・リーブスは、自社内部でAIが何を起こしているかを語った。AIによって、彼は「今後5年でやるつもりのことを、今後6カ月でやる話として語れる能力」を得たという。そうした加速は、働き方も変えていなければ起こり得ない。

いま、大半の大企業の目の前にあるのはその問いである。AIを採用するかどうかではない――それは誰もがやっている。より難しい問いは、AIを前提に自社のオペレーティングシステムをどう再設計するかだ。AIを既存システムに追加する別のツールとして扱う企業は、老朽化が進む構造を、今後5年かけて最適化することになりかねない。再構築の理由としてAIを捉える未来志向のリーダーは、別の場所へたどり着く。

これらの転換はいずれも容易ではない。外から見れば無謀に映るものもあるだろう。重要なのは、あらゆる統制を放棄することではない。それぞれの統制が、会社を守るのをやめ、足を引っ張り始めたタイミングに気づくことである。なぜなら、より大きなリスクは速く動きすぎることではない。取り残されることなのだ。

forbes.com 原文

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